「ちょっ、はなして!」
「危なかった……逃すとこだった……」
「逃げたんだけど⁉ ふざけないで放して!」
「無理だ」
「無理でも放せ!」
「……今のは俺が悪かった。言葉を飛ばしてしまった。謝るしちゃんと話すから、逃げないでくれ」
「………」
真剣な声でそう言うと、咲桜は抵抗するのをやめた。安心して、長く息を吐いた。そして、いつかのように頭を撫でる。
「咲桜のことがすきなのは、本当だ」
「ええっ⁉」
「……そこから驚くのか?」
ちょっとショックだ。
「だって……流夜くんが、婚約者でいてくれるのは偽物だからで、私には彼氏作れとか言ったし……」
「言ったけど、それはほぼ初対面のときだろ。今は全然違う。それに、お前のせいで色々変わってっしまったとも言っただろ」
「………」
確かに見合い事件の日が、ほぼ初対面だった。そしてそう言ったのも確かだ。
「大分変ってしまったんだ。お前の位置が」
「……どういうこと」
咲桜はいじけたように下を向いている。言葉にしないと通じない。咲桜を前にすると痛切にわかる。
「……すきだから、恋人になりたいって思ったよ。でも、現状生徒と教師だし、偽物って前提があるから繕っていられる関係だともわかっている。だから咲桜が卒業したらそう言うつもりだった」
「……彼氏作れっていうの、撤回された記憶はないよ」
「咲桜に彼氏なんて出来そうになったらとことん邪魔してやるつもりだった。陰険なのは得意だからな」
「……くっ」
咲桜が吹き出した。……怒っていたの、少しは解けただろうか。
この際だ。全部話してしまえ。カッコつけていて咲桜に不埒者呼ばわりされて離れられるよりは、カッコなんてなくても全部話す方がマシだ。