机に軽く腰かけ、手を取った咲桜は傍らに立つ。
「……なに、したんですか」
「……すまん、どれのことだ?」
その問いかけには、答えが多すぎる自分だ。咲桜には色々しているから。咲桜はカッと火が付いたように喋り出した。
「私が流夜くんとこにいたときですよ! 夜中に起きて、流夜くんのご家族の話を聞く以外になにあったの⁉」
……未だに気にしていたのか。いや、気にしていてもらわないと困るんだが。
「そのうちしてやるとか言って、なにあったかすら教えてくれないじゃないですか。流夜くんは不誠実なんですか」
「………」
思いっきり眉根を寄せる咲桜。その言われ方はちょっと嫌だな。咲桜にそう思われるのもいただけない。
「……わかった。もう一度すればいいのか?」
「……言うでもいいですけど」
「こうしたんだ」
咲桜の右頬の手をかけ、屈みこむ。軽く触れ合うと、それまで微動だにしなかった咲桜から衝撃を受けた。
思いっきり、突き飛ばされた。
「な……なにすんのばか!」
顔を真っ赤にさせた咲桜が、泣きそうな顔で睨んでくる。
「そう、いうのは……恋人がするものでしょう! 不埒者―っ!」
言い放ち、資料室を飛び出した。
「………」
拒絶された。
「―――」
違う。
拒絶されるようなことをしたのは自分だという事実があるだけだ。昨日も追いかけた背中を、今度は抱きしめる形で捕まえた。