「あ……ごめん……」
声もか細く揺れている。
「その……事件のこと、とかは……あんまり考えてなかったかもしれない……」
遙音くんのことでいっぱいになっていた。そう言うように、笑満は顔を歪ませた。
「……じゃあ、これだけ言うね? 犯人のアリバイを崩したのが流夜くん。居場所を見つけたのが降渡さんで、最後に仕留めたのは吹雪さん。なんだって」
「……アリバイ?」
「うん。犯人にはアリバイがあって、一度容疑者から外れた。それを破ったのが流夜くん。その流夜くんに助けを求めたのが、遙音先輩」
「………」
「それだけ知ってれば十分かな? あとは放課後まで待とうか」
やっぱり夜々さんに相談を――
「ううん、昼休み、行く」
今度の笑満の声は決然としていた。
手の震えは止まって見えた。
「あたしから言うの変かもだけど、流夜くんにお礼、言いたい」
遙音くんを助けてくれてありがとう、って。
そう口が動くのを見て、私はしっかり肯いた。
+++
「……そうか」
「はい。ありがとうございました!」
昼休みの旧校舎。笑満を前にして、流夜くんは少し困っているようだった。
九十度に頭を下げられた体育会系な礼を言われて、反応に困っているみたい。
「あたし、当時はただ遙音くんが心配なだけで、その周りを見てませんでした。先生がいてくれて、本当によかった。……遙音くんを助けてくれて、ありがとうございました」
……犯人が捕まったからと言って命がかえるわけではない。
けれど、事件的な解決もないままとは違うと思う。
遙音先輩の気持ち。
「と言われても……最終的に捕まえたのは吹雪だしな」
困った感満載の流夜くんに、笑満は小首を傾げた。
「そうなんですか?」
「あいつが一番凶暴向きなんだ。対戦闘は吹雪の領域だ」
「でも……きっかけを作ってくれたのは、先生でしょう?」