「……お前が言ったんだろ」
なんでこいつの発言は滅茶苦茶なんだろう。いつも。
けど、なんだか本気で真剣に言ってくる。
「俺らはな、咲桜ちゃんを在義さんの娘として可愛がっても、嫁にやりたくねーとかいうレベルで見ねえよ」
「……俺だけ感染してるのか」
くそっ、いつもつるんでいるこいつらだけど、二人だけ免疫でもあるのか。俺の返事に、降渡は今度、可哀想なものを見るような瞳をし始めた。
「アホ。うつるわけねえだろ、そんな感情」
「だからお前が言ったんじゃねえか」
「んじゃあさ、在義さんは一度でも言ったのか? 咲桜ちゃんを嫁にやりたくないって」
………………。
在義さんは署内でも有名な親バカだけど、この前話して、一番に願っているのも娘の幸せだというのもわかった。それを邪魔立てするような人ではないと思っている。
俺は記憶をめくるように宙を見つめ、呟いた。
「……言ってない」
「だろ? だからそれはお前だけの感情だろ。他のところへ嫁にやりたくない? ちげーだろ。もう少し自分の頭ん中解釈しろよ」
そんなことを言って、元いた場所に戻って行った。
……解釈出来たら最近困ってねえんだよ。
本当に最近なのだけど、ふと浮かんだ言葉や感情に、自分でツッコミを入れていることが何度もある。それこそ、頭の中が解釈出来ていない。
今までになかったことで、どう解決したもんか悩んでいるところだ。
「例えばさー、愛子の目的に対抗して、咲桜ちゃんに彼氏出来ましたつって、お前は偽婚約を解消出来るの?」
「………」
降渡の問いかけを考える。しかし答えにはすぐに行きついて、その答えに自分で愕然としてしまった。
「……ゆるせなかった……」
え? は? なんで? 咲桜に彼氏が出来れば、咲桜の結婚を政略的に使われる可能性が少なくなって、伴って、俺との偽婚約も解消、咲桜も俺も愛子の企みから自由になるわけだ。
……けれど、咲桜に彼氏、という存在にイラッとしてしまった。