「……これ以上僕の周りでボケたことぬかしてると咲桜ちゃんと出逢った記憶ぶっ飛ばすくらいに殴るよ」
「それは困る」
し、嫌だ。
「なら、鈍感でいることを自分にゆるさないことだね」
いつも通り鋭くしてなよ。そう言って、吹雪は踵を返した。
(……鈍感でいること?)
意味がよくわからない。
けれど、意味がわからないことこそ、吹雪の言う『鈍感』なのだとは、わかった。
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「……情けねえツラさらすんじぇねえよ。仮にも俺の弟子が」
「……すいません」
《白》の猫の鈴を鳴らすと、師匠に一喝された。
「しけたツラする奴に出す茶はねえが、今耳は暇だ」
「………」
龍さんの優しさは摑みどころがない。今に始まったことじゃないが。
自分の祖父のところに犯罪被害者の子供を預けるとか、並じゃないよな……と改めて思った。
龍さんの祖父も大概な性格だったが。
大概、雑で大雑把で無頓着で頓珍漢で荒唐無稽で破天荒だった。あの祖父に育てられたことを思えば、龍さんはましに育った方だろう。
同じように龍さん祖父に育てられたうちの一人である俺は、色々受け継いで育ってしまった部分が否定出来ないので若干恨めしい。
「……まんま惚れてんじゃねえか」
悩みを聞いた龍さんから、呆気にとられたような一言。まさかこいつからこんな話を聞く日がこようとは、と無表情が言っている。
「……すみません」
「なにを謝ってんだ」
「……在義さんの娘に好意持つとか」
「そこか? バカじゃねえのか、おめえは」
「………すいません、ほんとわかんなくて、どうしたらいいとか」
「素直になりゃいんじゃねえのか?」
簡単明瞭な答えだった。