『流夜くんだよね? わざわざ電話して謝るようなことを……?』
「………」
底冷えのする異端の刑事の声に、凍り付いた。取調室にぶち込まれた気分だ。
「あ、あの在義さん――」
『なんだい?』
『だから返してーっ』
咲桜の声は一切無視されている。
はっとした。咲桜が言っていたことを思い出したのだ。
『在義父さんや夜々さんに怒られてもいいとか――』
言ったそうだ。自分は。たぶんそれは本心で、咲桜を抱きしめられるくらい傍にいられるなら、在義さんに怒られるくらいどうってことない。
ただ、在義さんの怒りを買って咲桜に逢うことが出来なくなるのが嫌なだけで。
その仮面が、在義さんに対して萎縮するという方面で出ていた。
今は?
「すみません、在義さん」
『……私に謝ることをしたのか?』
「はい。なにをしたかは言えませんが、在義さんと咲桜に誠実を貫くなら、俺は謝らねばなりません」
さすがにバカ正直には言えなかった。咲桜がいてくれるだけで眠れる、それは誰にも知られたくないから。
咲桜しか知らなくていいと思う秘密。
在義さんはしばらく黙っていた。沈黙が耳に痛い。
『……君のことだ。犯罪じみた真似はないとは思っている』
「はい。それは誓えます」
今のところ、ですが。
心の中だけで付け足した。
『逢おうと思って逢えない場所にいるわけじゃないだろう。こんな遅くに電話しないで、直接逢って話しなさい』
「……はい」
逢おうと思って逢えない場所に、在義さんの妻はいる。今の言葉が、電話を奪ってまで言いたかったことのようだ。