「すごいよねえ。正直、私も三人には警官になってほしかったよ。遙音くんのことがあった高校生時点で、流夜くんと降渡くんにはその気はなかったようだけど」

「高校生だったんだ……」

自分と同い年の流夜くん。

想像するのは難しいけど、もの凄く見てみたい。絶対カッコいい。

今度降渡さんに逢ったら写真でも見せてもらおうか。

この前は流夜くんに蹴飛ばされたり龍生さんにこき使われたり散々な目に遭っていた人だったけど、フレンドリーで話しやすかった。

「うん。降渡くんは大学在学中に、龍生の探偵業を継いでしまったんだけどね。それで中退しちゃったし。吹雪くんは……入ってくれたのはいいけど一年目で閑職に飛ばされるようなことするからなー、あの子は。咲桜、三人とも面識はあるんだろう?」

「あ、うん。この前龍生さんのとこで。揃って逢ったわけではないけど」

「三人揃うと面白い子たちだよ。一番大人しく見える吹雪くんが、一番手をつけられない暴れ馬なんだ。せめて流夜くんが一緒に警官になってくれていたら、今みたいなことにはならなかったろうね……」

二人は吹雪くんの安全装置なんだよ。在義父さんは肩を竦めて言った。

――流夜くんが、教師じゃなかったら。

その前提を、考えたことがないわけではない。

「……でも、流夜くんが先生じゃなかったら、私は逢ってなかったよ」

コト、と箸が机に触れた。

あの日の見合い相手が流夜くんでなかったら、自分はどうなっていただろう。

いや、どうもなっていなかった。

今までと変わらず、生きることをゆるしてもらうためにがんばっていた。胸を張って生きてはいられなかった。

寄りかかっても安心出来る人なんて、知らなかった。抱き留めてくれる腕を。

やわらかなあたたかさを。

「……そうだね。私も同じ学校だと聞いたときはどうしようかと思ったよ。まさか春芽くんがそれを知らないわけがないしね。知った上でふっかけやがったな、とも思った。……どうだい? 咲桜は、流夜くんで」

「……うん」

それ以上の言葉はない。在義父さんは「そうか」と呟いて、味噌汁の椀を傾けた。

どうしよう……。

危ない。さっき別れたばかりなのに、もう流夜くんに逢いたい。逢って訊きたいことが、たくさん出来てしまった。少しだけ恨めしく、その原因である在義父さんに気づかれないように睨んだ。