「遙音先輩? そんなことはないと思うけど?」
なんか流夜くんはいやにそこを気にするな、と感じる。
「遙音先輩と仲良くなるのは笑満の方でしょ」
「……そうなんだろうが……」
納得がいかない。そんな苦い顔が見えた。
すぐにうちについた。
「ありがとうございました。流夜くんも気を付けて」
ベルトを外しながら言うと、返事の代わりのように腕を摑まれた。
「りゅ――?」
「ありがとう。眠れなくなったらまた頼む」
艶っぽい微笑とともに言われ、仕返しを喰らった気分になった。
自分で言いだしたことが、なんとも恥ずかしいことだったと思い知る。
「……はい」
俯き加減で答えても、声はちゃんと届いたらしい。
今日は、流夜くんは家にはあがらず、そのまま吹雪さんの許へ向かった。
いろいろあって、煙吹いたり爆発しかけた顔をもとに戻す努力をしつつ、「ただいま」と声をかけた。
電気がついているので、在義父さんはもう帰っているようだ。
「おかえりー」
在義父さんに迎えられるのは珍しい。
今は、ジャケットは脱いでいるけど、在義父さんは家でも基本スタイルがスーツだった。いつでも出られるように、らしい。現場主義な在義父さんだった。
「流夜くんは?」
「吹雪さんのとこに行くって」
「そうかい。少し文句つけようと思ったんだが……」
「………」
それを想定して家まで入らなかったのかもしれない。
「遅くなったこと? いつもとあまり変わんない時間だけど……」
鞄を椅子に置いて、エプロンをかける。作っておいたものをあっためなおすだけだけど、習慣だった。