「当時は、被害者である遙音に対する、事件後の被害がすごかったからな。保護する意味も含めて、少し離れた場所にある施設に預けた。あの頃の遙音に、周りを気遣う余裕もなかっただろう」
「……忘れちゃったのかな」
「どうだろうな……。あいつ、記憶力はいいけど、そういう辛い局面での記憶だけ飛ばしてしまうのが人間だからな。松生の言う通り、憶えているかと訊くのは酷だろう。松生のことを思い出すのは、イコール事件を思い出すのと同義だ」
「……笑満も、たぶんそういう風には告白しないと思う」
「知り合いだとは言わないということか?」
「うん……。どうするかは笑満次第だけど、藤城で逢った後輩としてすきになるって決めたって、言ってたから」
「松生も案外気遣い屋なのか?」
「案外ではなくてそうだよ」
「俺には攻撃的にしか見えなかったが……」
「私も笑満も、結構喧嘩上等だから」
「咲桜も?……」
「だよ。じゃないと頼の友達は出来ない」
「………」
「あの、そろそろご飯の準備をしたいのですが……」
「………」
「流夜くん?」
「………」
返事がない。と言うか、反応がない。どうしたのかと困っていると、かくんと肩に重みが乗った。
「……寝ちゃった?」