「……お前に避けられるのはきつい。学校でないところで同じ空間にいるのに、目を逸らすのはやめてくれ」

「……ごめんなさい……。さっきのは、その……個人的な理由がありまして……」

「理由?」

「……流夜くんを見ると噴火するんです……」

また噴火しそうで、目線は泳ぎまくる。流夜くんは意味がわからんとばかりに眉を寄せた。

「……は?」

「だからっ、流夜くんを見るとなんか知んないけど心拍数あがってドクドクしてきて頭真っ白になっちゃうのっ」

大声で言い放つと、流夜くんは困惑を深めたようだ。

「それはどうすれば治るのかな……」

なんと真面目な返事か。私、自分のアホ発言加減にげんなりする。なんで偽婚約者相手にこんな前後不覚状態にならなきゃならないんだ。

「早く治さないとここにもまともに来れなくなる……」

情けなさとか不甲斐無さとかが入り混じって、私の声は泣きそうだった。だって流夜くんのいるところはすきだから。安心の大きさが、他のどことも違うから。

「それは困る」

「……うう……」

そう言われて、私は唸った。すると、そうだなー、と流夜くんも呟く。そして、私の方を見て一言。

「取りあえず慣れろ」

「力技過ぎるよ!」

「手っ取り早いだろ」

「むしろ短絡過ぎるよ!」

簡単な解決策だが、私にはとんでもなくそうではない。

「ならこうするか」

「わっ!」

くるりと反転させて、お腹に手を廻して抱き寄せられた。私の背中が流夜くんの胸にくっつく形だ。