「……さ、咲桜だってちゃんと神宮のことすきだよな? 笑満ちゃん」
日義の最後の方の言葉に不安になって、首だけ振り向かせた。
「咲桜は女の子恋愛対象ではないですよ。男前過ぎて女子に憧れられはしますけど。でも頼がそこまで落ち込むとは思わなかったよ」
「んー……なんかこのままいけば、咲桜って俺と付き合ってるような気がしてたんだよなー……惰性で」
「それは咲桜にも自分にも失礼なこと言ってんぞ?」
指摘すると、日義は空気でも抜けたようにベンチに腰をおろした。
「俺、咲桜のことすきだったのかな……」
「知らねーよ。あとそれ、憶測でも神宮には言うなよ」
あの咲桜バカが聞いたら、日義のことをツブしにかかってきかねない。
うなだれている日義を見下ろして、俺は警戒を解かない。神宮のところに行ったって……あとで無事だったか訪ねに行こうか。
「……ごめん、笑満。今だけ慰めて」
「………」
笑満ちゃんが俺の護りを出て行こうとするのを、その手首を摑んで止めた。すると笑満ちゃんは驚いたように振り返る。
「あ――ぶない、んじゃないか?」
小声で言うと、笑満ちゃんはふわっと笑った。
「大丈夫。あんなんでもあたしの友達だから。……少しだけ、行ってくるね」
その言葉は、まるで帰る場所は俺のところだと言うようで。……俺は、少し悔しい気持ちを抱えながらも手を離すことが出来た。
「バカだねえ、あんたは」
日義の前に立って、笑満ちゃんは毒づいた。
「ごめん……」
「あたしはいいよ、何も被害ないし。ただ、咲桜にはちゃんと謝っておきなよ。あんたが先生のこと追っかけまわそうとしてるの知って、必死に阻止しようとしてたんだから」
「うん……」
「……咲桜、今やっと自分のこと肯定出来てるの。自分の命とか……先生のおかげで。……あたしにもあんたにも適わなかったこと」