私はなんとか正気を取り戻し、そのままいつも通りご飯の準備をしよう……としているのだけど、どうにも流夜くんが見られない。
流夜くんのことならいつだって見ていたいはずなのに、見たら自分、致死毒を受けると思う。
現にさっき、血圧上昇し過ぎたし。
「咲桜? 調子悪いのか?」
悩んでいると、後ろから声がかかった。私が騒ぐので、ちゃんと上着も着てくれた。
「えっ? いや、そんなことはっ」
ありまくりだ。
「そうか?」
流夜くんは首を傾げる。
「咲桜、こっち来い?」
「な、なんで?」
「確認したいことがある」
トントン、と机を叩く音がして、背を向けるのを諦めた。鍋の火を切る。
「……なんでそんな格好する」
「諸事情により」
私は、流夜くんに背中は向けないけど、九十度の方向を見て正座した。やっぱりどうにも正面切れない。情けない。しかし流夜くんは、それがお気に召さないらしい。
「………こっち向け」
「勘弁してください」
「なんで」
「私の心臓に訊いてください」
「……わかった」
ぐいと、腕を引かれた。そのまま、背中に耳をつけられた。
「な、なあっ!?」
「お前が言ったんだろう、心臓に訊けと」
「そ、そそそういう!?」
「本当どうした。心臓は答えてくれない」
やっと、耳を離してくれた。
「咲桜?」
そして真正面から見られて――見られて、しまった。
「――咲桜!?」
煙吹いた。