自分も咲桜に対しては大概だとは思っているが、朝間先生はそれ以上な気がする。
「なら先生も入ってください。不埒な真似はしません」
言うと同時にインターホンを鳴らす。
待ちかねていたようにすぐに扉が開けられた。
「流夜くんっ、大丈夫? 誰かに尾行られてない?」
「問題ない。あの人は問題あるけど」
まだ、咲桜の不安は完全に払拭されていないようだ。
日義からの言葉を伝えて早く安心させたいところだが、鬼の見張りがいるのでなかなかどうしようもない。
「夜々さん?」
問題、と言われて咲桜は、またかこの二人は、という顔だ。
「俺が不埒な真似をしないか不安なんだと」
「……夜々さん。そういうの大丈夫だからっ。とりあえず二人とも入って?」
咲桜に引っ張ってこられて、朝間先生も華取宅へ入った。俺が最後になったので鍵を閉める。
「夜々さんもご飯食べてく?」
「今日は箏子母さんがいるから帰ってからにするわ。でも、ちょっとお手伝いして、いただいていこうかな」
「いいよー」
そんなやり取りがあって、咲桜と朝間先生が揃ってキッチンへ立つ。
手伝いをする、と申し出でると、朝間先生に睨まれた。
咲桜との時間を邪魔するなと言いたげな顔だった。
咲桜も、「あっためなおすだけだから」と言って断ってきた。
二人が並ぶ姿を見る。
愛子の方が年上だけど、咲桜は朝間先生を母、愛子を姉のような感覚で懐いているように見える。
「女性の後ろ姿でにやつかないでください」
「俺が見てるのは咲桜だけです」
にやついてもいない。言い返すと、やはり厳しい瞳が返ってくる。この人も結構な二重人格じゃないか?
皿に料理を分けた朝間先生が、咲桜に向き直る。
「咲桜ちゃん、神宮さんに変なことされそうだったら大声出すのよ? うちまで聞こえるから駆けつけるわ」
とんでもない助言を。
たぶん、咲桜の関係で頭を抱えるのは愛子より朝間先生の方だ。