準備をしていると、背後から声がかかった。
「咲桜、ここに来るんですか?」
「……たまにな」
お前が怪しい動きをするまでは毎日来ていてくれたのに――と恨み言を言いたくなったが、わざわざ弱みを握らせる気はない。
「ふーん」
「お前、俺には興味ないんだろ? 何しに来たんだよ」
卓にカップを置いて尋ねると、日義は軽く頭を下げた。
「先生には興味なくても、咲桜の旦那には興味あるんで」
爆弾を落とされた。俺はカップを落としかけた。
資料室ではそれこそ薄ら感じただけだが、やはり日義は咲桜に感情があるようだ。
「咲桜……いいヤツなんですよね。俺のことも気味悪がらないし」
話し出した日義。俺も腰を据える。本音としては早く咲桜のところへ行きたかったが、問題は万事解決していない。
「お前、その両極端なテンション、むしろ疲れないか?」
ふり幅が大きすぎる。思わず訊いてしまった。
「疲れてますよー。今日は最高のモデルが素顔見せてくれたし、向こう一か月分くらいテンション使っちゃいました。なので明日から小テストとかの点数悪くても気にしないでください」
「問題あり過ぎるだろ、その振り分けは」
確かに、すさまじい行動力を示してくれた。だがテストの点数が悪いのとは別問題だ。
「そんな俺の両極端さに対応してくれたの、咲桜だけなんですよね」