咲桜を抱きしめて、これほどまでに誰かに護られていると思ったことはない。

日義の問い詰めに対する咲桜の過激な発言には正直面喰ったが――自分がそうはさせない。絶対に大丈夫にする。

卒業式まで待つというあの発言は、本当に全部咲桜のためだ。

そこが少し悔しいけど――長い友人は、咲桜を傷つけることは厭うのだろう。

アパートの駐車場に車を停めると、部屋の前に人影があった。

どう見ても俺を待っている姿は日義だった。

昼間の件、まさか気が変わったとかいって押しかけて来たのではないか。

日義の普段の生活態度からしてありうる。

車を降りた、その扉が閉まる音で気づいたのか、日義はゆっくり顔を向けた。

覇気のない表情。これこそ俺の知る『通常運転の日義頼』だった。

「どうした」

今更教師として取り繕うところもないので、気取らずに声をかける。

「少し……話し足りないことがあって来ました」

そう言う声は間延びしていて、やはりいつも寝こけている日義だった。

部屋に入れると、俺からまず気になったことを問うた。

「どうやってここを?」

まさか咲桜の危惧通り、尾行(つけ)られていたのだろうか。

そんな気配を最近感じたことはなかったけど……。

「なんかのときに……職員名簿の住所見たような気がして……。薄ら憶えてました」

「………」

故意に見たわけではないことを薄ら憶えていたのか。

学校でも大概寝ているくせに首席とか、遙音とは違って秀才ではなく天才タイプのようだ。

キョロキョロしている日義にも、一応茶を出す甲斐性は出来るようになった。

その辺りは礼儀だと咲桜に諭されたから。