「っ? 頼……?」
家族写真? 咲桜が名を呼ぶと、日義はいつもの気だるげな様子だった。
「だから、家族写真。卒業式ならいいだろ? なので先生、咲桜の卒業式にそのカッコいい素顔で来てくださいよ。眼鏡かけてたらぶんどって川に捨てるから」
また、と言って頼は教室を出て行った。騒がしい奴が消えて、資料室は一気に静かになった。
「………」
「……なあ、日義となにあったんだ? お前ら」
「自分で考えろ。俺らの側(がわ)にいるんならな」
外していたメガネを戻した。
「遙音。日義にお前もつけ狙わないようにさせるから、今日はもう戻ってくれないか?」
「んなこと言って――、……わかった。あとで詳しい説明しろよ」
咲桜の肩が震える様子を見て、遙音は俺に言い置いてから教室を出た。
「咲桜」
二人しかいない部屋で、震える細い肩を抱き寄せた。
「ありがとう。護ってくれて」
咲桜は首を横に振る。そんなこと、ない。小さく、そんな声がした。
「……頼が……」
抱き寄せられるまま俺の胸に頭を押し付けた咲桜は、揺れる声を押し出した。よかった、と呟く。
「大丈夫みたいだな。卒業式までは黙っていてくれるらしいしな」
日義の勝手な約束だけど、その日まで、日義は咲桜を裏切ることはしないだろう。
咲桜と日義の間にあるのが友情、というには少し歪(いびつ)に見えるけど、しっかりとした絆でもあるようだ。
「……咲桜、今日咲桜の家に行ってもいいか?」
「うち? だったら私がそっちに――」
「逢いに行きたいんだ、俺が。……逢いに来てほしい、じゃなくて。今日くらいはそうさせてくれないか?」
いつも、咲桜の方から来てくれるから、今日くらいは。
咲桜は小さく肯いた。