「神宮! いいのかよツラさらして――」
「しょうがないだろ。生徒ぶっ飛ばして記憶トバすわけにもいかねーし。お前、俺には興味ねーんだろ?」
完全に素で話す俺に、咲桜は冷や冷やしているようだ。
「……本当に、神宮先生?」
日義は疑わしげな顔をした。顔を見せた方が信じてもらえなかった。
「どうやって偽物になるんだ」
一度も目の前から消えてもねえだろ。
「咲桜。婚約者って本当?」
「日義」
「咲桜に訊いている。本当なのか?」
日義が俺に反論する。
真剣な眼差し。いつもは机に突っ伏して寝てばかりの日義は、咲桜のことではこんな表情もするのか……。
「うん、本当。話したかったら言っていいよ。私も学校辞めるから」
咲桜も誤魔化しはしなかった。躊躇う様子もなく宣言した。
……またさらっと危ないことを。
日義はカメラごと手をおろした。
「……俺より先生なんだ……」
日義の口の中で消えた言葉は、咲桜には聞こえただろうか。俺の耳には届いていた。
「……写真、今日は諦めます」
「また明日来るのか?」
俺が眉をひそめると、咲桜も口を結ぶ。どういうつもりだ?
「いえ。俺、今までも行事とかでカメラ任されてきましたから、たぶん高校でもそうなると思うんですよね。……卒業式で、家族写真撮らせてもらいます」