「頼は……親父さんが水墨画家なんです。結構有名な。その影響で小さな頃は絵を描いてたらしいんだけど、性に合わなくて写真に転向したとかで。自分の好みの人間でも風景でも、被写体を見つけるとあんなにはっちゃけた性格になっちゃって……最近は騒がないから落ち着いたかと思ってたんだけど……」

はー、と長い息を吐いた。

……それで芸術家体質、というわけか。

父親の職業あたりは無論調べがついていた。

けど、どうして咲桜が怯えるほど警戒するのかがわからなかった。

「……俺も大概危ない奴らに関わってきたけど、あそこまで怖いと思った奴は初めてだ……」

生徒を怖いと思ったのだって初めてだ。

龍さん仕込みで武道はある程度やっているので、暴力問題を起こすような生徒の対応も心得ている。

藤城ではそんな生徒は少ないが、ただ、地味な教師に抑え込まれたとは生徒らのプライドが許さないのか、学内でも学外でも噂もされてはいない。

指から移動して、咲桜の腕に触れる。

ぴくりと肩が跳ねたのを見て、勢いよく引き込んだ。

バランスを崩した咲桜が飛び込んでくる。難なく受け止めて、膝の上に座らせた。

「わっ、流夜くん学校でこれはまずいんじゃ――」

「日義の所為で二日もまともに逢えなかったんだ。少しくらい触らせてくれ」

直接的な言葉のせいか、咲桜の頬が朱に染まった。

「……お前、よく日義と友達でいるよな。小学校から一緒だって言ってたか?」

咲桜は背が高いので、膝に乗せると身長差で少しだけ咲桜の視線が上になる。

腰に手を廻して抱き寄せ、片手で長い髪を梳く。あー、落ち着く。これだから手放したくないんだ。

「友達っていうか……小学校で頼に追い掛け回されたのは私だから」

「……なに?」

咲桜の髪をいじっていた手が停まる。

まじまじと咲桜の顔を覗き込むと、かなりの疲れが見える顔になっていた。

追い掛け回されたって――ものすごく嫌な響きだ。

「頼が、最初に興味を持ったのが私なんだって。さっきの流夜くんみたいな反応で写真を撮らせてくれって追い掛け回されて……。その異様さに、生徒も先生もみんな引いちゃって。これは私が責任取って一生友達でいるしかないなって思った」

「どうしてそういうとこ男らしいんだ、お前は」

惚れ直すぞ。

呟き、髪を掬ってキスした。

案の定、咲桜は触れたところを押さえて真赤になる。