笑満はまた、膝に顔を埋めた。

気持ちばかりが焦って頭が追いつかないと言いたいようだ。

「大丈夫。もし傷つくことなら、遙音先輩は言わせないと思うよ。さっき『笑満ちゃん』って呼んだそれ、笑満にそう呼ぶ距離はゆるしてるってことじゃない? 少なくとも、私よりは笑満を近くにしてると思う」

近づく距離は、ゆるされた分しか近づけない。どんなに足掻いたって、それを決めるのは相手だ。

「……なんか、咲桜が成長してる……」

笑満は透明な瞳を何度か瞬かせた。

「そう? だったらそれは、流夜くんのおかげだ」

距離の感覚は、流夜くんが教えてくれた。

額と額がくっつく距離をゆるしてくれるなら、なんだって、不安も悩みも、楽しい話も聞くからおいでと言ってくれた。

その答えを聞くと、笑満はふわっと笑った。……まだ、涙は薄ら見える。

「咲桜のお見合い相手、流夜くんでよかった」

「……私もそう思う」

もうこんなに、流夜くんでなければダメだった。偽モノ婚約だけど、はっきりそう言える。

「本当に婚約しちゃいなよ」

「それは……迷惑だよ」

偽モノだから、流夜くんは協力してくれた。

最初は婚約の話なんて言語道断といった雰囲気だったのに、偽モノという時点で肯いてくれたのだから。

「そんなことないと思うんだけどなー。あたしが咲桜あげてもいいって言ったら、じゃあもらおうか、て言ったんだよ?」

「笑満に調子合わせてくれただけでしょ」

流夜くんは軽いノリで大胆なこと言う。

だから重い意味などないと理解していないと、何回も火を噴きそうになる。

「笑満は、遙音先輩のこと、すき?」

「………うん」

問いかけに、申し訳なさそうに肯く笑満。

「じゃあ伝えなくちゃもったいない」