降渡から得た情報で総て解決、とはいかなかった。が、多少ながら状況は得ることが出来た。
「………」
旧館へ向かう途中だった。
並んだ樹の影に、人の姿が見えた。
この二日は咲桜が休み時間にやってくることもなくて、物足りない日を過ごしていたからすぐに気づいた。
咲桜と日義だ。
言い争っているわけではないが、咲桜が何かを言い募っているのがわかる。
ここからだと見えるのは日義の表情の方だった。
日義はいいから咲桜の顔が見たい。そう思って、少し足を停めた。
途端、日義と目が合った。
特に隠れてもいなかったから、偶然だったのかもしれない。
だが明らかに、俺に気づいた日義は唇を歪めた。
そして、咲桜に覆いかぶさるように近づいた。
「――!」
な――
にをしている!
「咲桜!」
思わず、ここが学校であることも忘れて叫んだ。
冗談じゃない!
咲桜が振り向いた。すぐに距離を詰めた俺は、咲桜の腕を摑んで引き寄せた。
「りゅ――先生っ?」
名前を呼ぼうとして、現実に気づいたようだ。その呼ばれ方に俺もはっとする。
「日義――くん、何してるんですか」
変な言い方になってしまったが、とにかく咲桜を日義から離さないと。
「いやいや先生――やっと顔を見せてくれましたね」
浮かれたような声に、俺が正面から見た日義は瞳をきらめかせていた。
……日義?
なんでそんな嬉しそうな顔をする。こんな生気あふれる日義の顔を見たのは初めてだった。
「俺は別に咲桜をどうこうしようなんてないですよ。ただ、学外での先生に逢いたかっただけで」
キスなんてしてません。と、腕を広げてみせた。
……やっぱりばれていたか。