電話では駄目だった。逢いたかった。直接その瞳を見たかった。体温は触れてしかわからない。腕の中に置いてほしかった。

……総て、話すべきなんだと思う。

流夜くんはただの教師ではなく、偽婚約者だけではなく、恋人。

頼のことは、私が未だに時々困ることではあるから――完全に終わった過去のこととは言えないから。

話しておくべきなんだと思うけど……どうにも言いづらい。むしろ言いたくない。

やましいことがあるから、ではなく、単に話したくないという気持ちしか理由はない。どうしたもんか。

「咲桜、結構苦労性だよね」

「……うん」

断片的に、頼のしたことを知っている笑満は気遣いの眼差しをくれる。

頼の友達として、「そんなことないよ」と否定することは出来なかった。実際苦労している。

「……流夜くんに話しちゃえば?」

笑満は人目がある場所では、『流夜くん』と呼ぶ。

私と二人だけのときは『神宮先生』と言うから、笑満の配慮はひしひしと感じる。

「話したいんだけど……なんか、頼が今度は流夜くんに目ぇつけたみたいな感じで……」

「え。……それって、頼的な意味で?」

うん、と肯いた。『頼的な意味』で目をつけられている、と感じる言い回しをされているから。

「はー。あいつもとことん面倒だね。せっかく付き合えたばっかなのに」

「申し訳ない……」

「あたしに謝ることないよ。あたしはなんの被害もないんだから。……流夜くん、心配してるでしょ?」

「うん……。昨日、龍生さんのお店で話したんだけど……やっぱり、言えなくて……。本当どうしよう」

もう頭を抱えるしかない。けれど、解決しなければいけない。