残った笑満に、私は顔の前で両手を合わせた。
「笑満ありがとう」
小声で礼を言うと、笑満は軽く手を振った。
「いや、簡単に納得してくれてよかったよ。……頼。あんた咲桜を困らせたいの?」
「……笑満、知ってたのか?」
ぼんやりした声で問われると、こちらの覇気が抜かれてしまいそうになる。
「……知ってるけど」
「どんな人?」
「……あんた、見たんじゃないの?」
笑満は私から、疑わしい経緯は総て聞いている。
「ちらっとだけ。性格までわかんないじゃん」
飄々と返されて、笑満は一瞬私を見た。流夜くんだと気付れているの? 私は瞼をおろすことで答えた。
「……咲桜にべた惚れしてる人だよ。咲桜のこと一番大事にしてくれる」
「ふーん」
自分から訊いておいて、気のない返事だった。
「じゃ、今度逢わせてよね」
ひらりと風に載せるみたいに簡単に言葉を残して、頼は自分の席へ行ってしまった。私が是非の答えも出す前に。
「咲桜、大丈夫?」
笑満が身を屈めて様子をうかがってくる。片手でこめかみを押さえながら肯いた。本当は大丈夫じゃない。でも、欠片くらいは大丈夫だった。
昨日、龍生さんのお店で流夜くんと逢えたから。