「咲桜―」
頼より先に教室にいた私は、気だるげな声に呼ばれて、びくりと肩を震わせた。
「あ。おはよう。どうした?」
平静を装うけど、声の音程がおかしい気がする。
「咲桜の彼氏、逢わせてよ」
私の机の前まで来てそんなことを言うもんだから、驚きで硬直してしまった。
代わりに反応したのは、登校していたクラスメイトたちだった。
「えーっ、咲桜彼氏出来たの⁉」
「誰⁉ 藤城の人っ?」
「わー、おめでとーっ」
「華取、マジで彼氏いんの⁉」
「なんだよ、日義は知ってんのか?」
わっと群がってきたクラスメイトに泡喰った。まさかバカ正直に「神宮先生」なんて言えるはずもなく。
困っていると、笑満が一度大きく手を打った。
「はーい、咲桜困らせないの」
「なんだよ。松生知ってんのか?」
男子の一人に言われ、笑満は「当り前でしょ」と腰に手をあてた。
「頼が知っててあたしが知らないわけないじゃない。咲桜の彼氏は優しくて包容力のある大人だよ。この大人びた美貌の咲桜とよくお似合いな」
「年上?」
「ちょっとね。だからあんたたちが束になってかかっても全然敵わないよ。わかったらはーい、散る!」
「えー、咲桜の彼氏見てみたいー」
「機会があったらね。向こうはお仕事持ってる人だから、難しいけど」
「そうなの? 本当に大人なんだ」
「んでも、咲桜おめでとー」
「いつか逢わせてよね」
口ぐちに言って、みんなばらけていった。……ノリのいいクラスメイトだった。