『咲桜。彼氏とお似合いだな』
ぞくり――と肌が粟立ったのを今でも思い出す。
昼休み、流夜くんのいる旧校舎を訪れようとした私の足を停めた言葉。頼がそんなことを言うなんて――煌(きら)めいた瞳。あのときと同じだ。
まさかと思っていたけど――
やばい――流夜くんが狙われる!
その言葉を聞いて、直感が確信に変わった。頼は流夜くんに目をつけている。過去の私にしたように。
……あんな思いを流夜くんにさせるのは嫌だ。そう想いが募って、結局旧校舎へは行けず、自分の部屋に戻ってからも胸の奥に重いものがたちこめていた。
流夜くんには、今日は行けないとメッセージを入れておいた。少し考える時間がほしい……。
それに、頼だったらどこかに張り込んでいるかもしれない不安があった。
夜々さんや笑満は、小学生の頃、実際に私にあったことをその目で見ては知らない。
私も積極的に話したいことでもないから、たぶん総てをうまく説明は出来ていない。
放課後、夜々さんとすれ違った。私の尋常でもない様子を悟ってか、夜々さんは、今日はうちに来る? と声をかけてくれた。
その優しさは真っ直ぐで、とても嬉しかった。
けれど。
あんな奴でも、友達でいるって決めたのは私だ。……自分で解決する。
小学校来の決意が勝り、一旦は自分の中になにかを見つけたいと――解決策を見つけたいと宣言した。
笑満と夜々さんは心配そうな顔で、不承不承といった瞳をしていた。
……流夜くんだってばれそうなのは、私のせいだ。
頼のことだから、私の隣に立つ流夜くんを見て目をつけたのだろう。
……本当に、もっと気を付けているべきだった。流夜くんをいらない騒動に巻き込んでしまうなんて……。
「………」
駄目だ、酸欠になりそう……。
頭の中がごちゃごちゃし過ぎて、うまく考えることも出来ない。
流夜くんと逢えないだけで息苦しくなるってバカみたいだと思いながら、でもやっぱり、もう流夜くんから離れることは出来ないのだと心臓が実感する。
……鼓動のひとつだって。
あの人の傍らを願う。
首元に手がのびた。カチンと、小さくお互いが触れる音を立てる桜と月。
チャームの部分を握りしめていると、呼吸が落ち着いてくる。
胸に渦巻く不安も、薄らいでいくような気さえする。
……まるで精神安定剤のようだ。