「頼? ……日義か?」

こくりと肯いた。

「それはぬかったな……」

「……そういう意味じゃないの」

「? 意味?」

「――ごめんなさいこれって言いたくない、ほんと」

咲桜は俯き早口に言った。

「………」

言いたくないこと。吹雪の言い分ではないが、そのくらいはあることは頭ではわかっているつもりだ。咲桜は咲桜の生(せい)を生きている。

けれど今、それに触れることを咲桜は拒むのだろう。こちらを見てくれないように。

「……咲桜に、危ないことはないんだな?」

「………」

こくり、また肯いた。そして口を開く。

「ごめん。これは、たぶん私が解決しないといけないから」

必死な言い募り方に、胸に下がらないものを感じながらも、がんばった。がんばって、咲桜の意思を肯定することにした。

「……わかった。咲桜が無事ならいい。訊かないから、そんな顔をするな」

本当は無理矢理にでも口を割らせたい。咲桜を憔悴させるほどのことなんて、存在するだけでゆるせない。

しかしそんなことを言ったところでどうにもならない。

「………」

咲桜は申し訳なさそうに、また深く俯いた。

「だからそんな顔するなって……。咲桜、触ってもいいか?」

「えっ」

「手、握るだけだから」

「………」

今度は咲桜は、恥ずかしそうにうつむいた。そして、机に隠れていた手を持ち上げた。

机の上で繋がれた両手。

「……力になれることがあったら、言えよ」

「……うん…………」