ゴツン、と二人揃って龍さんに拳骨を喰らった。
力加減はされていたらしく、咲桜は頭を押さえただけだったが、俺はあまりの衝撃に蹲った。
ほ、星が散った……。
「娘(じょう)ちゃん、店閉めてるから、中入れ。大丈夫、周りには誰もいない」
龍さんは咲桜に言い、俺の耳を摑んで店に引きずった。
「龍さん痛いっ!」
「黙れガキ。少しは娘ちゃんの不安考えろ」
不安? 今度は、咲桜は逃げずに唇を噛んでついてきていた。――その手を取って導きたいのに、今は咲桜がその距離を拒んでいた。手を伸ばしても取ってくれない。摑んでも、握り返してはくれない。……そんな気がした。
「……ほら、外からは見えねえ。安心して話しな。俺は奥にいっから」
龍さんは窓総てにシャッターをかけ、ついでだと言って二人分の紅茶を用意してカウンターの奥へ消えた。
「………」
「………」
沈黙に包まれる。
「……咲桜。なにか危ないことがあるのか?」
俺から話しかけると、咲桜は少しだけ顔を浮かせた。何か言いたそうに唇が揺れたが、音にはならない。そして、軽く首を横に振った。テーブル席に対面で座っているから、机の影になって見えないけど、膝の上で拳を握っているように見えた。
向かい合わせ。手を伸ばせば咲桜の頬には触れられる。……咲桜の方へ向かって手を差し出す。けれど、咲桜には触れることなく机の上に落ちた。
「咲桜。……なんでもいいから話してくれないか? お前に無視されるのはきつい」
「む、無視なんてしてないっ」
「じゃあ、なんでこっちを見てくれないんだ? 俺がなにか嫌なことをしてしまったか? あるなら言ってくれ。……怒らないから」
咲桜の心が知りたい。その中で自分は、咲桜に対して失態を犯したのだろうか。だから咲桜はこんな不安そうな顔をするのか? 非が自分にあるならば謝って解決したい。咲桜の心が不安になっているのは、嫌だ。
「……昨日、頼に見られたみたいなの」