「笑満ちゃんの家族はさ、普通の家だよ。事件なんて日常じゃない人たち」
「……それを理由に咲桜に好意を持つのか?」
「ねーよ。んな自殺好意。でもさー。……俺だと、笑満ちゃんの友達です、とすら名乗れねーんだよ」
……それで落ち込んでいるというわけか。
遙音の家族は殺されている。怨恨による殺人事件だった。松生の家はその当時の近所づきあいのある家だった。事件後、世間は犯人に同情的になり、幼い遙音へのバッシングすらあった。遙音は松生を、『最後まで優しかった唯一の子』、と言っていた。
遙音自身、松生の家族を恨んでいるような節はない。が、遙音の過去を顧みれば、松生の家族は遙音への対応に困るだろう。もしもの話だが、松生と友達として親しくすることを反対される可能性だってある。
「……松生を失いたくないか」
「失えねーよ。……大切過ぎて」
だからどうと、言ってやることが出来ないんだけど。俺自身も、親類からは厄介者扱いを受けた過去がある。龍さんの祖父の許に長く落ち着いたけど、確かに咲桜と付き合うことを、自分の家族のことで、咲桜の家族のために悩んだことはない。
咲桜の唯一の家族は、直接神宮家(うち)の事件にこそ関わっていないが、現在は一警察本部のトップだ。理解、とは表現が違うかもしれないが、遙音のように思い悩むことはなかった。
「あー。なんかぶっ飛ばしてー」
「落ち着け阿呆」
「ストレス発散。樹とか殴ってみるの」
「手が痛いだけだぞ。大体――お前の感情はただの友情なのか?」
「……殴ったことあんの?」
胡乱に訊かれた。