「……今度はなんだ」
「昨日めっちゃ楽しかったんだよねー」
「だったら浮かれてろよ。なんで壁際で落ち込むんだ」
また遙音は壁際で小さくなっていた。俺はため息をつく。なんだと言うんだ。
「……笑満ちゃんって咲桜のこと大すきだよなー」
「……やらねーぞ」
「わかってるよ。やきも神宮」
「あ?」
「お前はいいよな。昨日は咲桜とデートだったんだろ?」
「……なんで知ってる」
昨日、こいつが背後にいる気配はなかったはずだ。
「笑満ちゃんに訊いた。咲桜がいないから遊びませんかーって誘われて、俺は数年ぶりに幸せな時間を過ごしたのでした」
「……でした、で終わらせていいのか? それ」
浮かれるほど楽しかったのだろう?
頬杖をついて壁際の遙音を見遣る。
「……神宮はいいよな」
「だからなんだよ」
同じことを繰り返されて、若干イラッとした。
「……咲桜、親父さん華取本部長じゃん」
「………」
松生の家族のことか。合点がいった。