「うん。楽しかったよー」
「それは重畳(ちょうじょう)」
「まあ……最初に吹雪さんと降渡さんが現れて吹雪さんが滅茶苦茶なやり方で逆ナンとナンパ追い返してたんだけどね……」
あれは未だに、思い出して驚くという奇異な体験だった。
「え、どういうこと?」
逆ナンとナンパ? 笑満が不思議そうな顔をするので、吹雪さんのやり方を教えた。ぶはっと吹き出された。
「ほ、ほんと⁉ す、すごすぎるよ吹雪さん……!」
お腹を抱えて笑ってる。やっぱりそんな反応だよね。
「見てみたいなー吹雪さん」
「美人って言ったら怒られるらしいよ」
「気をつけなきゃ」
しゃんとした顔をしてみせる笑満。けど一転、好奇心の瞳で私を見て来た。
「ね、咲桜。それはもしかして流夜くんから?」
笑満の瞳が首元に輝くものに向いているのがわかって、はっと手で押さえた。
「や、やばいかな? 見つかるかな?」
「風紀? 大丈夫でしょ、うちは。ネックレスどころか指輪してる子だっているし」
進学校の名を呈するのだからガチガチの校則かと思われがちだが、二大勢力の桜庭学院と違って、藤城学園は校内における校則はゆるやかだった。
「見ていい?」
笑満がなんだか嬉しそうに言うので、こっくり肯いた。笑満は私が手を離したところを見て、にやにやしだした。
「可愛いねえ。桜と月」