「おい、お前ここにいんのばれてんぞ」
「……!」
カウンター席に座る在義の肩が大袈裟に跳ねた。俺はカウンターに寄りかかりため息を吐く。
「あいつにばれねえわけねえだろ。俺が育てたんだからよ。……帳場はウソ、流夜と娘(じょう)ちゃんから逃げたって、まあわかってんだろうな」
「………」
在義は手を組んで拳に額を押し当てた。
「だってな、龍生……咲桜が彼氏連れてくるとかもっと後のことだと思っていたのに……」
「てめーから偽婚約了承しといてなに言ってんだよ。それに、流夜だったらいんだろ?」
「いいから悪いんだよ」
「どっちだ」
「流夜くんがいい子だから反対出来ないんだよ。なんこう、もう社会不適合レベルだったら猛反対出来たのに!」
「娘ちゃんがそんなヤツ連れてくる方が難しいけどな」
カウンターの中に入り、アホなこと言っている幼馴染を落ち着けるためにハーブティーでも淹れてやる。
「……いいのか? 流夜、まだ美流子(みるこ)のこと諦めきれてねえだろ」
「……それは仕方ないと言うか……どうしようもないとしか言えないだろう。美流子さんのことは……。諦めるなとも吹っ切れとも、言えないよ」
まあな、在義に肯き、お湯を落とす。
「んで? 流夜が娘ちゃんのことは諦めるわけねえだろ。どうすんだ? 逃げ続けんのか?」
「………」
「そしたら箏子のばあさん、流夜を華取の家に置く方選ぶかもな」
「そうなのか⁉」
「あたりめーだろ。親父がいねえ、娘一人の家なんて危ねえだろ。だったら彼氏置いといた方がまだ安心じゃねえか」
「そ、そう、なのか……?」