「え、昔のご近所さん?」

「うん……あたしが引っ越す前の、家の方の……」

もう放課後で授業はないので、手近な教室に笑満と一緒に入った。

笑満は小学校四年のときに転校してきた。それ以来ずっと、一番の友達だった。

今笑満は、出窓に体育座りをして小さくなっている。

「遙音くんは憶えてないと思ってたんだけど……あたしのこと、『笑満ちゃん』って呼んだ。あの頃みたいに」

そう言えば、私のことは呼び捨てにするのに、さっき笑満のことはそう呼んでいた。

流夜くんのことは『神宮』と呼ぶし、少し話した中でもみんな呼び捨てで、敬称愛称で呼ぶ人はいなかったように思う。

……笑満だけだ。

「でも、昔の友達なら、そうですって名乗ればよかったのに」

笑満が先輩をすきなことは承知している。入学式からずっとそう公言しているから。

「無理だよ……遙音くんは、あたしたちのことなんて思い出さない方がいいって思ってたから……」

いつもはつらつとしていて有言実行、行動力がハンパじゃない笑満にしては消極的な言葉。

ガンガン乗り込んでいくのが笑満らしいくらいなのに。

私が流夜くんのことで悩んでいた時は、私を引きずって流夜くんのところまで連れて行ったくらいなのに。

「……なにかあったの?」

そう言えば、と思い出す。流夜くんは先輩のことを、自分に近い、とかいった表現をしたことがある。

ざわりと肌に浮く嫌な予感。

笑満は膝に顔を埋めて答えた。

「遙音くんのご家族、亡くなってるの。……殺人事件」

「………」

――そこが、共通点なのか。

私は、言葉はなくも、内心合点がいった。