最後は、ふっと口をついて出た。箏子さんは感情の読めない笑みを見せた。

「そうですか。……では、大事にしてくださいね」

もちろんです。そう答えて、朝間家を辞した。停めておいた車に乗り込み、スマートフォンを取り出す。かける先は、吹雪に連絡した時点で決めていた。

『おう? なんだ、電話なんて珍しいじゃねえか』

渋い、若干無骨な声に問いかける。

「龍さん、そっちに在義さんいたりする?」

『在義? 来てねえぞ。なんだ、緊急の連絡か?』

「いや、そういうわけじゃないんだ」

やっぱり龍さんはまだ無理か……。

声の調子から嘘発見でも出来たらいいのだけど、こと龍さんと在義さんには未だに通用しない。

やはり師匠は上手か。今も、動揺も見えなく、本当にいないのかもしれないという疑念が出来てしまう。

「また、咲桜を連れて行くよ」

『おう』

それだけ伝えて、電話を切った。

もしかして在義さんは龍さんのところにいるかと思ったが、どうかはわからなかった。

咲桜のいる華取の家を振り返って、思わず口元が綻ぶ。最終的な目的は果たせなかったけど、それでも、咲桜の恐怖や不安が少しでも薄れたらいい。

……受け取ってもらえてよかった。すぐにつけていられるほど、首にある傷は薄らいでいると信じたい。

あの子からたくさん幸せをもらうように、幸せをあげたいと思っている。