「こちらこそ」

「ありがとう。あ、でも流夜くんの行きたいとことかも、考えておいて」

「俺?」

「うん。だって、私と流夜くんの話でしょ? 私だけで成立するわけないんだから、私の方だけ通すの違うと思うから。……あれ? 言ってることの方が違うのかな?」

言葉にしていてこんがらがってきたようだ。眉根を寄せる咲桜。

「いや……そうだな。考えておく」

行きたいところ、というか、咲桜を連れて行きたいところになりそうだけど。

「……咲桜」

「うん?」

首を傾げる咲桜を見て、これだけは今日叶えておきたいと思う。頬に手を添える。

「流夜くん?」

「……まだ、ちゃんとしてなかったなと思って」

「え……」

すっと、指を咲桜の唇の端に触れさせる。

「……!」

咲桜から動揺はありありと感じられたが、していいと言ったのは咲桜だ。目が泳ぎまくっている。

「キス。していいんだろ?」

わざとらしく問うと、咲桜は顔を真赤にしてきた。

「二回ともお前を怒らせたみたいだから。……今度はこっち」

頬に置いたままの親指で、咲桜の唇をなぞる。一度ぎゅっと瞳を瞑られたけど、抵抗はなかった。薄ら開いた瞳の、透明なこと。

「……こ、この前は怒ったけど……最初のときは、怒ってない、と思う……」

精一杯の弁明に、思わず俺の口元が綻んだ。

「なら、またしても怒らない?」

「………」

困った様子の咲桜は視線を俺から逸らして、助けでも求めているみたいだ。

「……こっち向け」