落ち込んでしまった。
咲桜は俺と違い警察内部の話を知るようなことはないから、逃げたとは知らない。
約束が破られたことがショックなのだろう。
「仕方ない。在義さんの仕事ってそういうのだし」
……在義さんをかばうためとはいえ、嘘を言うのは気が引ける。
優しさのために嘘をつかないという評価をもらったばかりだから、なおさら胸が苦しい。
優しさのために嘘をつくのではなくて、痛みを与えないために真実を話さないだけだ。
……どっちにしろ、咲桜にしたら話してくれって思うよな。
咲桜はどんどん小さくなる。
「取りあえず、今日は帰るよ。在義さんには、俺からも時間を作ってもらうように話すから」
ぽんぽん、最後とばかりに頭を軽く叩いた。はっと咲桜の顔が仰向いた。
「もう、帰るの?」
光に揺れる瞳に息を呑んだ。こいつ……こんな儚げな瞳をしていたか? 駄目だ。どんどん惹かれていく。呑まれていく――いっそ溺れてしまいたいくらいだ。
意識が咲桜だけになりそうなのを、迫る危機の現実ひとつで戻した。
「そろそろ帰らないとお隣が殴りこんできそうだからな」
わざと茶化すように言って、手を引いた。朝間先生のことだから、熊手を持って乗り込んできても今更驚けない。
「……うん」
在義さんからのゆるしがなかったのがショックなのか、咲桜はまだ浮かばない。
せっかく楽しい日だったのに……そんなことが口から聞こえそうだ。
……そういう淋しさを取り除くのも、俺が咲桜に望んだ位置だ。いつも笑顔でいてほしいから。
「また、デートしよう。咲桜の行きたいところ考えておいてくれ」
そう言うと、咲桜は瞳を見開いた。
「え……いいの?」
「いいに決まってるだろ。俺は咲桜以外とデートなんて出来ないみたいだからな」
昼間に咲桜に話した、学生時代のことは真実だ。
誰かと一緒にいて、この時間の永続を願ったのは初めてだ。
咲桜と一緒だと、早く署へ行きたい、なんて思えるわけがないと気づいた。むしろ咲桜と一緒にいたいのだと。
「で、でーと?」
「うん? 違ったか?」
その表現は嫌だったろうか。訊き返すと、咲桜は首を横に振った。
「ううんっ! う、嬉しい! ま、またよろしくお願いします」
律儀に頭を下げた。