「えっ、お仕事になったの? 大丈夫?」

咲桜と華取の家に帰るなり、在義さんから咲桜に電話がかかった。

帳場が出来てしまい、帰れなくなったそうだ。

「ううん、日を改める。……うん、気を付けて」

通話、終了。

「……だそうです」

咲桜が悲しそうな瞳で見てくる。

「………」

逃げたな。

直感的にそう思った。

電話の向こうから聞こえた在義さんの声が若干上ずっていた。

帳場に臨むときの緊張感のある在義さんの声とは少し違っていた。

電話による聞こえの違いを差し引いても、どこか焦っているようだ。

そして家に入る前に、吹雪に連絡を取ってある。

現在この県内で、捜査本部が出来るような事件は発生していない。

まさかと思って確認しておいたら、見事にはまってくれた。

俺がなにを話しにきたのかを悟って、仕事だと言って逃げたのだろう。

「………」

まさかあの在義さんが逃げるとは……。やはり娘バカも大概だったか。

華取家まで来たものの、在義さんがいないのではどうしようもない――……いや、咲桜と二人きりでいられる、とか邪なことを考えるな。

自分を戒める。

お隣の目は今日も光っているのだ。あまり遅くまではいられない。

ぶんぶん頭を振っていると、咲桜が不審そうに見てきた。

「どうしようか……流夜くん、せっかく来てくれたのに……」

「あー、気にするな。また出直す」

しょぼんとしてしまった咲桜の頭を撫でる。咲桜に非はないのだから。

「でも……やっぱり、反対されるのかな……」