「……いつまでも、咲桜をもらえないのは嫌だからな」

「……へ?」

咲桜をもらえない?

クエスチョンマークが浮かぶと、流夜くんは苦い顔になった。

「朝間先生を咲桜の母君のように接するとか、無理だから。咲桜を護る位置は俺だけでいい」

「………」

それは……どういうことなのだろう……。

わからないでいると、流夜くんは軽く息を吐いた。しょうがない。全部話すか、そんな顔だ。

「咲桜の母君は桃子さんだけだろう。母のような存在であっても、そうではない。それこそ、在義さんと結婚でもしない限り。……だから、喧嘩売るんだよ」

最後のにっとした笑いに、流夜くんの言いたいことがわかった。

私との仲を認めさせるついでに、発破をかけるつもりなのだ。

夜々さんは、桃子母さんが現れなければ在義父さんと結婚していただろうと言われるほど在義父さんを慕っている。

今も独身を貫いて、気にすることと言えば在義父さんのことと私のことぐらい。

けれど桃子母さんと仲が悪かったとか敵視していたとかいうこともなく、今も昔も『桃ちゃん』と呼んで可愛がってくれていた。

……年齢はどちらが上か、結局はわからず仕舞いだったけど。

在義父さんも夜々さんを『夜々ちゃん』と妹のように可愛がっている。

二人の間に恋情があるかはわからないけれど、母の代わり、ではなく夜々さんの存在を、私は望んでいる。

「……うん。夜々さんと父さんが結婚してくれたら、嬉しい」

正直な気持ちだった。

母がほしい、ではなくて、ただずっと見守ってくれた夜々さんと、血の繋がらない自分を大事に育ててくれた在義父さんには、幸せになってほしい。

もしも今、二人が両想いだったら、二人が一緒になることは、嬉しいだけだ。

「そういうわけだ。言ってもいいか?」

「うん」

しっかり肯いた。

ずっと、あたたかな愛情をくれた二人。

恩返しではなくて、返せる愛情の示し方があるのなら、自分は行動するだろう。

大すきな人たちの幸せを願うために。