「笑満―っ!」
旧校舎は使う人がほとんどいないためか埃くさい。
廊下に鬱積したそれを蹴飛ばす勢いで走る笑満を、私も本気になって追った。
コーナー、階段のところで笑満の腕を捕まえたと思ったら、勢い余って二人して転んでしまった。
「いたた……」
「ごめん、でも逃げるから追っちゃったじゃん」
逃がすまいと、笑満の腕を摑んだ手は離さない。
「どうしたの? 笑満、遙音先輩がすきだから恥ずかしいとかはわかるけど……なんかあったの?」
「………」
ぺたりと坐りこんでいる笑満は、しばらく呆然としていた。それから、ふと口元を歪めた。
「やっぱり……あたし、遙音くんには逢っちゃダメだった……」
「はるおとくん……?」
その聞きなれない呼び方に、私は眉を寄せる。
笑満は夏島先輩のことを、『先輩』と呼んでいたはずだけど……。
がばりと笑満が顔をあげた。今にも泣き出しそうな顔で、傷ついた瞳をしていた。
「どうしよう咲桜っ、遙音くんに昔のこと、思い出させちゃうかもしれない……っ」
私の制服を摑んですがってきた手。
私はその手を握り返した。