「りゅうと咲桜ちゃんってどうなってんの?」
いつも集まるのは龍さんの店、《白(シロ)》だ。珍しく吹雪と二人で俺の部屋に来た降渡が来たと思ったら、そんなことを言った。そして勝手に茶の用意をする幼馴染(ヤツ)。
どうもなにも、
「順調に偽婚約だが?」
仕事あがりの俺は、眼鏡をはずしてローテブルに放る。
学校でかけている眼鏡は顔を隠すための伊達なので、家にいるときは必要ない。まだ、教職を辞めるわけにはいかないからな。
勝手にテーブルについて、俺の向かいにいる吹雪は愉快そうに話を聞いている。隣の降渡は「いや」と手を振った。
「そっちじゃなくて。お前らの偽婚約解くためには咲桜ちゃんに彼氏が必要なんだろ? 出来そう?」
………ああ。
「……まだ無理みたいだ」
咲桜は自分の彼氏どころではなく、ほぼ毎日俺のアパートへやってきてメシを作って行ってくれる。おかげで俺も健康志向になってしまいそうだ。
……偽婚約の話を合わせるために今までの私事――学者としての仕事の方――の概要なんかを話したら、生活態度が狂っていると説教を喰らった。
先日、在義さんにも正座で説教されたから、俺は華取家には逆らえない性質らしい。
これまでやってきたやり方を変えるのは難しいけど、咲桜を怒らせたくもない……気がする。
しかしそんなことに時間を使っていては、偽婚約の先の目的が果たせない。
「じゃあさ、りゅうは咲桜ちゃんをどう思ってるの?」
「咲桜を?」
「率直に」
そう訊かれて、考えてみた。
咲桜をどう思っているか、か……。