その後の一週間は、利香と彩音はそれまでと変わらない日々を過ごした。

 ふらりと図書室に現れる利香は、絵の進捗状況を話すと、ああでもない、こうでもないと自分なりの完成図を伝えて、美術室に帰っていった。彩音がしゃべる時もあった。中身は水槽の中身への不満がほとんどだったが、それを彩音は笑いながら『めんどくさいんだねえ』なんて言いながら聞いていた。

 九月になり、夕日が落ちるのが早くなるのもあって、図書館は橙色に染まることが多くなった。暖色に包まれ、柔らかに光る部屋の中で二人の少女は、お互いを理解しあいながら、急速に親しんでいく。

 水槽という教室の中で、素直になれない彩音は、この幸福の中に溺れたいとすら思うようになっていた。すでに、水槽の中への興味は失せていて、今まで培った演技力と惰性だけで周囲と過ごしていた。

 そんな時に、彩音は夢を見た。

 水槽の中で、自分の口から出て行く無数の気泡を見ながら、目の前にあるプラスチックの壁をがんがんと叩いている。壁の向こう側には利香がいて、こちらを不思議そうに眺めている。その目は「なんでそこで苦しんでいるの?」と言っている気がした。しばらくすると利香は、浮かび上がり、目の前を優雅に泳ぎまわる。個性的な尾びれを持った魚のようにセーラー服をひらひらと翻し、夏のセーラー服から出ている細い手足を、ゆっくりと動かしながら、少しだけ自慢するように、楽しく泳いでいる。

 それを見ているだけで自分は苦しくなっていき、意識が遠のきそうになる。そんな中、利香が壁に近寄って口を動かした。

「壁なんて、無いんだよ」

 ただそれだけを告げて、唇を壁に押し当てる。それに縋るように唇を近づけたところで、彩音は決まって目を覚ました。

 何を暗示しているのか、わかっていた。

 夢は、何かを案じさせる為に抽象的な夢を見せると、どこかの本に書いてあるのを思い出す。

 そんなことはなかった。

 自分のうちにあるものが、ほぼそのまま夢となって出ているじゃないか。

 起き上がり、自分の枕元に置いてある時計を見ると、タイマーがセットしてある二分前だった。窓から風が入り込んで、寝汗で濡れているパジャマに当たり、肌寒い。

 今日も演技をしないと。

 ぼんやりとした頭で考える。

 しかし、今週を乗り切れば、明日には利香の家に行ける。今回は何時間も会えるから、楽しみだった。

 だけど、これが終われば自分たちはもう、図書室で会うことしかない。

 周囲に気を遣って、会えるのは十分程度。誰にも怪しまれないように、まるで、秘密で付き合う恋人のように、会うことしかできない。

 それに、文化祭が終われば、もう、会うこともなくなる。

 だって、自分の役目が終わってしまうのだから。

 進む時計を見ながら、彩音はこのまま時が止まってしまえばいい、そうすれば、このままの状態でいられる。変わらずにずっと、このままの関係でいられるのに、と思った。



 ああ、でもそうしたら明日も来ないから、永遠に利香とは会えないまま―――



 それに気付いた瞬間に、アラームが鳴り響いた。