内部進学のくせに大学デビューをこじらせた女の末路だと世界が私を蔑んでも、あなたがいればそれでいい。大学二年生にして私は優紫の子を妊娠した。

 二つ年上の優紫は、もう卒業するから問題ない。そんな話をいくら両親にしても無駄だから、黙って家を飛び出した。持ち物は通帳とスマホと、優紫に憧れて買った愛用のカメラ。着ているラベンダー色のコートはクリスマスに優紫がくれたもの。つけている紫の万華鏡のペンダントは優紫が十九歳の誕生日にくれたもの。

 早朝の公園のベンチでうとうとしていた。遠い昔の夢を見た。七歳くらいの頃の夢。

 幼馴染で親友の横山吹雪が泣いていた。

「助けて、助けて、私死んじゃうんだって」

「大丈夫だよ、吹雪」

 私が声をかけると、吹雪が泣きやんだ。私が何かを言いかける。

 そんな夢現状態の中、優紫の愛しい声が聞こえた。優紫と私は、今日駆け落ちをする。このことを知っているのは吹雪だけだ。

 通勤ラッシュが始まる前、始発でお台場へと向かった。大学一年生の夏休みにデートした、私たちの思い出の場所。所属していたダーツサークルのみんなに内緒で訪れた二人きりの海は、鮮やかな青をしていた。

 曇り空の下、あの日の思い出の場所をなぞる。私たちはもう子どもではいられない。明日、誕生日を迎えれば私は二十歳になる。これから生まれてくる子どものために子供を卒業してちゃんとお母さんにならなくてはならない。少女だった私と初恋の人が見た海を、この街を、そしてお台場から見える東京タワーを一つずつシャッターにおさめていった。

 一年生の頃は、私が写真を撮るのを優紫にあまりよく思われていなかった。カメラは優紫の真似をして始めた趣味なのに不思議だったけれど、わざわざ恋人を不快にさせることもないので優紫のいないところで、風景写真を撮っていた。

「この子が大きくなったら、また来たいね」

 優紫がうなずく。私の声に振り返った初老の女性が眉をひそめた。こんなに若いのに妊娠なんて、ということだろうか。それでも構わない。誰に何を思われても、優紫がいればそれでいい。

 一年半前に訪れたクレープ屋でクレープとタピオカミルクティーのセットを注文する。でも、私はカフェインをとってはいけないので、ミルクティーの代わりにノンカフェインのジャスミンティーにする。

「セット二つください」

「二つですか?」

「はい、二つです。片方はチョコバナナクレープとタピオカミルクティー、もう片方はいちごカスタードクレープとタピオカジャスミンティーでお願いします」

 クレープを夢中で頬張った。優紫は「お腹の子の分までいっぱい食べなきゃ」と、自分の分を分けてくれた。緩やかな時間の流れの中、華やかな日々を思い出していた。