至近距離でまっすぐに射抜かれて、僕の心臓はさらに縮こまる。

「は?」

 驚く僕に、君は言った。
 僕は死にたいなんて、一言も言っていないのに。

「私も、死んじゃおうかな」

 そう呟いた彼女の瞳は、底なしの宇宙かのように暗く、油断すると吸い込まれてしまいそうで…、何も言えないでいる僕に、彼女は構わず続ける。

「でも、一人だと怖いから」

 風がまた、強く吹いて僕と彼女の間を駆けていく。

「ねぇ」

 乱れる黒髪を手で押さえながら、彼女は訴えた。

「一緒に、死んでくれる?」

 真っすぐに僕を見て笑った。
 泣き笑いのような顔だ。

 僕は、返事も忘れて彼女のその顔に釘付けになった。
 とても綺麗な笑顔だったから、思わず見惚れてしまった。
 センセーショナルなセリフは、その意味と一緒に僕に衝撃を与える。

 けれど、いくらどんなにかわいい子にお願いをされたからといって「いいよ」と言えるほど僕はお人好しじゃない。

「だ、ダメだよ、死ぬのは」

 僕の口からかろうじて出たのはそんなお説教だった。

「ダメって、あなたも死のうと思ってたんじゃないの?」
「僕は、死のうなんて…」

 言いかけて、思った。
 死のうなんて思ってなかった?本当に?

 さっき、もしこの手を離したら…、足を踏み外したら…、と頭を過ぎったあれはなんだったというのか。

「ほら、やっぱり死のうと思ってたんでしょ」

 彼女の言葉を否定できない自分がいる。本当に死のうなんて、思っていないけど、ここに立って死を連想したのは間違いではなかった。

「…落ちたら死ぬかも、とは思ったけど…、死にたいとは思ってない」

 言い訳みたいに呟く。すると隣の彼女は空を仰ぎ見て、大きく息を吐いた。少し傾き始めた太陽が彼女の白い肌を一層白く照らしている。その眩しさに僕は目を細めた。

「あーあ、つまんないの。せっかく一緒に死んでくれる人が見つかったと思ったのに」

 つまんないって…なんだそれ。

「…なんで、死にたいの?」

 なんとなく浮かんだ疑問を投げてみる。別に、悩みを聞いてあげようとか、そんなんじゃない。ただ、気になっただけ。そう、興味が沸いただけだ。

「私ね」

 そこまで言って彼女は、こちらを見て、またふと笑う。そして、形のいい唇が動いた。



「ーーーー心が空っぽなの」