夏休み最初の活動にまどかは来なかった。嫌な予感がしてLINEをしたら、ちゃんと既読がついてほっとした。
次の活動にもまどかは来なかった。「私が夏休みまで生きてたら」という言葉が頭をよぎった。冷静に考えれば、いくらマンモス校とはいえ田舎では噂が広まるスピードも速いし、この情報化社会で同じ学年の生徒にもしものことがあった時、連絡の1つもないなんてありえない。それでも、心配になって何度も連絡した。しつこいくらいに連絡をしたら、何とも言えないテンションのスタンプが返って来た。
「まどかはしばらく休むらしいけど、2人はちゃんと活動しろって言われた」
幼馴染の緑川君は直接家に行ったようで、まどかの生存を確認できて心底安心した。2人きりになれるように気を遣っていただけなのかもしれないと安心したところで、まどかとの約束を守るべく、夏祭りの話を切り出した。
「あのね、今年の夏祭りなんだけどね……」
告白の前段階なのに一生分の勇気を使い切る勢いで発した言葉を、緑川君は遮った。
「まどかと2人で行ってきてやれよ。あいつ喜ぶよ」
予想外の言葉に顔がこわばった。
「なんで?」
まどかは友達だから、この返答はおかしい。咄嗟に出てきた言葉はあまりにも辛辣なものになってしまった。
「やっぱり、女同士はどうしても無理?」
緑川君が困ったような顔をして核心を突く質問をする。私がまどかとそういう関係にならないのは、性別云々の前に緑川君が好きだからなのに。どうして当の本人がそんなことを言うのか分からなかった。
「まどかってさ、すげーいい奴なんだよ。だから、もし女同士が生理的に無理とかじゃなければ、お試しでいいから付き合ってやってよ」
「なんで緑川君がそんなこと言うの……」
「だって、赤崎はまどかのこと振ったんだろ?」
頭の中がぐちゃぐちゃになった。優しい緑川君は幼馴染のまどかが私のことを好きだと知れば、絶対に私の告白を受け入れたりしない。私の恋を応援してくれると言ったはずなのに、実は根回ししてたの? そんなことばかりがぐるぐると脳みその中をまわって、めまいがする。
「まどかに聞いたの?」
「いや、まどかは何も言ってないけど、ずっとまどかのこと見てれば赤崎のこと恋愛的な意味で好きなことくらい分かるよ。それでさ、最近まどかの赤崎に対する態度が変わったから、もしかして告白したのかと思って。それで、部活来てないってことはダメだったんだなって思ったんだけど当たってる? なあ、赤崎的にまどかってそんなにナシ?」
まどかを一瞬でも疑ってしまったことが申し訳なかった。私はまどかの視線に全然気づかなかった。でも、どうして緑川君はまどかをずっと見ていたの? 嫌な予感が外れてほしくて、質問には答えず震える声で率直な感想を告げる。
「まどかのこと、よく見てるんだね」
でも、こういう時嫌な予感は大概当たるものなんだ。
「小学校の時からずっと好きだったんだよ。まどかのこと」
こうなってしまってはもはや告白どころではなかった。
「だったら、私がまどかと2人で夏祭り行ったり、付き合ったりするのって緑川君にメリットなくない?」
もう泣きそうだった。あまりに言い方が意地悪すぎて、自分が嫌になった。
「俺さ、終業式の日にまどかに告白したんだよ」
緑川君はポツリと言った。
「もう、ものの見事に玉砕。いや、ダメだって分かってたんだけどさ」
どうして、緑川君もまどかも無理だと分かっていて告白できるんだろう? 私は振られる可能性があるというだけであんなにビクビクしていたのに。そして、無理だと分かった今は、もう告白できない。
「ちゃんと振られて自分の気持ちにケリつければ、素直にまどかのこと応援できるかなって思ってさ。ほら、好きな奴には幸せになってほしいもんだろ」
私は何も言えなくて、逃げるように家に帰った。
私は緑川君とまどかが付き合ったら絶対に嫌だ。緑川君の幸せを願えない恋は本物の恋じゃないの? 私の恋は本気の恋じゃないの?
全部初めての感情だから分からなかった。どうしたらいいのか分からなくて、縋るようにまどかとのトーク画面を開いた。
分かっている。まどかだってどうしていいか分からなくて困っていることに。私と緑川君の板挟みになってどうしたらいいか分からなくて、部活を休んでいることに。私の好きな人に告白されて、罪悪感を覚えていることに。
でも、私も切羽詰まっていた。何をどう相談したらいいかも分からなかった。どうしてほしいのかも分からなかった。
「緑川君に告白されたの?」
気が動転して送ってしまったのは、責めるような文面になってしまった。そんなつもりではなかったので、すぐ送信取消しようとしたけど、一瞬で既読がついた。
既読がついてから15分後、かえってきたのはたった一言だった。
「ごめん」
まどかは私の恋敵。まどかは私の親友。まどかがもっと嫌な奴だったら良かったのに。私の好きだった人の心を奪った女は、悪魔ではなく天使だった。まどかのことを嫌いになれたらよかったのに。
私はそれ以上返信できなかった。だって、まどかは私のことが好きだから。私はまどかをズタボロに傷つける刃を持っている。そんな自分が怖くて私はまどかのことを避けた。
緑川君と恋人になりたかった。でも、まどかを傷つけたくなかった。まどかとはずっと友達でいたかった。もっとうまく立ち回りたかった。どうすればいいか分からなかった。何が言うべきことで、何が言わないべきことなのかも分からない初めての恋だった。
次の活動にもまどかは来なかった。「私が夏休みまで生きてたら」という言葉が頭をよぎった。冷静に考えれば、いくらマンモス校とはいえ田舎では噂が広まるスピードも速いし、この情報化社会で同じ学年の生徒にもしものことがあった時、連絡の1つもないなんてありえない。それでも、心配になって何度も連絡した。しつこいくらいに連絡をしたら、何とも言えないテンションのスタンプが返って来た。
「まどかはしばらく休むらしいけど、2人はちゃんと活動しろって言われた」
幼馴染の緑川君は直接家に行ったようで、まどかの生存を確認できて心底安心した。2人きりになれるように気を遣っていただけなのかもしれないと安心したところで、まどかとの約束を守るべく、夏祭りの話を切り出した。
「あのね、今年の夏祭りなんだけどね……」
告白の前段階なのに一生分の勇気を使い切る勢いで発した言葉を、緑川君は遮った。
「まどかと2人で行ってきてやれよ。あいつ喜ぶよ」
予想外の言葉に顔がこわばった。
「なんで?」
まどかは友達だから、この返答はおかしい。咄嗟に出てきた言葉はあまりにも辛辣なものになってしまった。
「やっぱり、女同士はどうしても無理?」
緑川君が困ったような顔をして核心を突く質問をする。私がまどかとそういう関係にならないのは、性別云々の前に緑川君が好きだからなのに。どうして当の本人がそんなことを言うのか分からなかった。
「まどかってさ、すげーいい奴なんだよ。だから、もし女同士が生理的に無理とかじゃなければ、お試しでいいから付き合ってやってよ」
「なんで緑川君がそんなこと言うの……」
「だって、赤崎はまどかのこと振ったんだろ?」
頭の中がぐちゃぐちゃになった。優しい緑川君は幼馴染のまどかが私のことを好きだと知れば、絶対に私の告白を受け入れたりしない。私の恋を応援してくれると言ったはずなのに、実は根回ししてたの? そんなことばかりがぐるぐると脳みその中をまわって、めまいがする。
「まどかに聞いたの?」
「いや、まどかは何も言ってないけど、ずっとまどかのこと見てれば赤崎のこと恋愛的な意味で好きなことくらい分かるよ。それでさ、最近まどかの赤崎に対する態度が変わったから、もしかして告白したのかと思って。それで、部活来てないってことはダメだったんだなって思ったんだけど当たってる? なあ、赤崎的にまどかってそんなにナシ?」
まどかを一瞬でも疑ってしまったことが申し訳なかった。私はまどかの視線に全然気づかなかった。でも、どうして緑川君はまどかをずっと見ていたの? 嫌な予感が外れてほしくて、質問には答えず震える声で率直な感想を告げる。
「まどかのこと、よく見てるんだね」
でも、こういう時嫌な予感は大概当たるものなんだ。
「小学校の時からずっと好きだったんだよ。まどかのこと」
こうなってしまってはもはや告白どころではなかった。
「だったら、私がまどかと2人で夏祭り行ったり、付き合ったりするのって緑川君にメリットなくない?」
もう泣きそうだった。あまりに言い方が意地悪すぎて、自分が嫌になった。
「俺さ、終業式の日にまどかに告白したんだよ」
緑川君はポツリと言った。
「もう、ものの見事に玉砕。いや、ダメだって分かってたんだけどさ」
どうして、緑川君もまどかも無理だと分かっていて告白できるんだろう? 私は振られる可能性があるというだけであんなにビクビクしていたのに。そして、無理だと分かった今は、もう告白できない。
「ちゃんと振られて自分の気持ちにケリつければ、素直にまどかのこと応援できるかなって思ってさ。ほら、好きな奴には幸せになってほしいもんだろ」
私は何も言えなくて、逃げるように家に帰った。
私は緑川君とまどかが付き合ったら絶対に嫌だ。緑川君の幸せを願えない恋は本物の恋じゃないの? 私の恋は本気の恋じゃないの?
全部初めての感情だから分からなかった。どうしたらいいのか分からなくて、縋るようにまどかとのトーク画面を開いた。
分かっている。まどかだってどうしていいか分からなくて困っていることに。私と緑川君の板挟みになってどうしたらいいか分からなくて、部活を休んでいることに。私の好きな人に告白されて、罪悪感を覚えていることに。
でも、私も切羽詰まっていた。何をどう相談したらいいかも分からなかった。どうしてほしいのかも分からなかった。
「緑川君に告白されたの?」
気が動転して送ってしまったのは、責めるような文面になってしまった。そんなつもりではなかったので、すぐ送信取消しようとしたけど、一瞬で既読がついた。
既読がついてから15分後、かえってきたのはたった一言だった。
「ごめん」
まどかは私の恋敵。まどかは私の親友。まどかがもっと嫌な奴だったら良かったのに。私の好きだった人の心を奪った女は、悪魔ではなく天使だった。まどかのことを嫌いになれたらよかったのに。
私はそれ以上返信できなかった。だって、まどかは私のことが好きだから。私はまどかをズタボロに傷つける刃を持っている。そんな自分が怖くて私はまどかのことを避けた。
緑川君と恋人になりたかった。でも、まどかを傷つけたくなかった。まどかとはずっと友達でいたかった。もっとうまく立ち回りたかった。どうすればいいか分からなかった。何が言うべきことで、何が言わないべきことなのかも分からない初めての恋だった。