まどかに背中を押されて迎えた次の金曜日。私は緑川君と2人っきりで色とりどりの炎を見つめていた。

「綺麗だね」

「そうだな。まどかも来ればよかったのに」

 薄暗い理科室に炎が揺らめいた。言わなきゃ。「ずっと好きでした」って。

 文系脳で精一杯論理的に考える。もし告白が成功したら一緒の大学に合格するためのモチベーションになる。失敗したら、緑川君ありきじゃなくてちゃんと進路を考える。このままモヤモヤしていたら受験勉強に差し支える。

 分かっているのに、言えなかった。緑川君に振られるのが怖かった。打たれ弱くて臆病な私は、振られたらきっと死んでしまうと思っていた。意気地なしの私は何も言えなかった。初めての恋だったから、何もかもが不器用だった。

 結局その日は、他愛もない話ばかりして、何の進展もないままに終わった。下校時刻にまどかから2件の送信取り消しの履歴の後に、「どうだった?」と一言だけLINEが来ていたので、「言えなかった」と正直に答えた。

 まどかは怒らなかった。翌日は学校が休みだったので振られた慰めパーティーじゃなくて、言えなかった残念会ということでまどかの家に行った。美味しい紅茶とお店で並んでいるものより綺麗なケーキ。まどかがわざと明るい声で言う。

「まあ、次の機会にってことでー。そうだ、夏祭り今年は2人で行って来たら? 去年までは佐藤先輩も含めて4人で行ってたけどさ。そこで言えばいいよ。みちるの浴衣姿、超絶綺麗だから、いっくんもOKしてくれるって!」

 まどかは普段と比べて、やたらと早口だった。その目は紅茶の湯気が揺らめくのを見つめていた。

「無理……。振られたら私、ショックで死んじゃう」

「死なないって! 大袈裟だなー」

 まどかが私の方を見て笑った。

「死ぬって! 私、緑川君に振られたら生きていけない!」

「失恋くらいで死ぬわけないじゃん! みちるは繊細だなー。まあ、そういうとこが可愛いんだけどさー」

「まどかには分かんないよ……」

 私はまどかに何でも相談していたけど、まどか自身の恋愛の話は聞いたことがなかった。

「んー。じゃあ、私が告白して振られても死なないって証拠見せたら、みちるは告白できる?」