話は高校3年生の春に遡る。佐藤先輩が卒業して部員が私たち3人だけになった科学部はカルメ焼きを作っていた。
部員は私、赤崎みちる。親友の青村まどか。そして私が好きだった緑川樹君。本来全然理系人間じゃないのに入学式で緑川君に一目惚れして科学部に追っかけ入部した。
頭が良くて根っからの理系人間の緑川君と、勉強は苦手だけどお菓子作りが得意なまどかのカルメ焼きは上手に膨らんだのに、私は失敗してしまった。私は遠慮したけど、まどかが上手にできたカルメ焼きを私と交換してくれる。まどかはいつも優しかった。私が今まで出会った誰よりも優しかった。
「そういやさ、まどかと赤崎は大学どうすんの?」
カルメ焼きを食べながら緑川君が話を振った。
「あたしは関西のパティシエ専門学校行くつもりだよ。いっくんは? みちるー、安心してよ。見た目はアレだけど普通においしいって。この未来のパティシエールのまどか様が保証するんだからね!」
まどかが元気よく答えた。まどかは何でもない日にハート型のマカロンやシュークリームをよくくれて、その全てがプロ並みのクオリティだった。失敗して焦げたカルメ焼きを食べてフォローしてくれることも忘れない。緑川君は東京の理系国立大学の名前を挙げた。私の学力では厳しいところだった。
「私も上京したいから、私立にはひっかかったらいいなあとは思ってるんだけど……」
本当は緑川君と同じ大学に行きたかった。でも、それを言うのはあまりに露骨だからぼかした。
部活が終わってまどかと2人、帰る前に女子トイレに寄ったタイミングのことだった。
「みちるさ、いっくんに告白しなよ」
唐突にまどかが言った。思わずまどかの方を見ると、リップを塗り直す私の横で、鏡をじっと見ながら特に乱れてもいない髪を何度もセットし直していた。
緑川君が好きだと言うことは、まどかにだけは相談していた。進路がバラバラになる前に、受験勉強が忙しくなる前に告白した方がいいのかなって、うっすら思ってはいたけど勇気が出なかった。
「でも、緑川君は私のことなんて何とも思ってないよ」
緑川君は幼馴染のまどかとは名前で呼び合っているのに、私はいつまで経っても距離を縮めることが出来ない。
「あたしが男だったら絶対みちるの告白断ったりしないし!」
まどかは私の方を見て食い気味に言った。その声は大きくて、女子トイレの外まで聞こえないか一瞬心配になった。
「みちるの告白断る男なんて世界一馬鹿だよ」
まどかが微笑んだ。その笑顔にずっと励まされてきた。
「来週炎色反応の実験やるっしょ? 炎色反応って実質花火だし、ロマンチックなムードで告白しちゃいなよ。あたしはテキトーな理由つけて欠席するからさ」
「でも、もし振られちゃったらどうしよう」
「その時は、いっくんをぶっ飛ばしてあたしが慰めてあげる! みちるの好きなお菓子なーんでも作ってあげる!」
まどかは頼もしい。まどかとは一生親友だとあの時強く思った。
部員は私、赤崎みちる。親友の青村まどか。そして私が好きだった緑川樹君。本来全然理系人間じゃないのに入学式で緑川君に一目惚れして科学部に追っかけ入部した。
頭が良くて根っからの理系人間の緑川君と、勉強は苦手だけどお菓子作りが得意なまどかのカルメ焼きは上手に膨らんだのに、私は失敗してしまった。私は遠慮したけど、まどかが上手にできたカルメ焼きを私と交換してくれる。まどかはいつも優しかった。私が今まで出会った誰よりも優しかった。
「そういやさ、まどかと赤崎は大学どうすんの?」
カルメ焼きを食べながら緑川君が話を振った。
「あたしは関西のパティシエ専門学校行くつもりだよ。いっくんは? みちるー、安心してよ。見た目はアレだけど普通においしいって。この未来のパティシエールのまどか様が保証するんだからね!」
まどかが元気よく答えた。まどかは何でもない日にハート型のマカロンやシュークリームをよくくれて、その全てがプロ並みのクオリティだった。失敗して焦げたカルメ焼きを食べてフォローしてくれることも忘れない。緑川君は東京の理系国立大学の名前を挙げた。私の学力では厳しいところだった。
「私も上京したいから、私立にはひっかかったらいいなあとは思ってるんだけど……」
本当は緑川君と同じ大学に行きたかった。でも、それを言うのはあまりに露骨だからぼかした。
部活が終わってまどかと2人、帰る前に女子トイレに寄ったタイミングのことだった。
「みちるさ、いっくんに告白しなよ」
唐突にまどかが言った。思わずまどかの方を見ると、リップを塗り直す私の横で、鏡をじっと見ながら特に乱れてもいない髪を何度もセットし直していた。
緑川君が好きだと言うことは、まどかにだけは相談していた。進路がバラバラになる前に、受験勉強が忙しくなる前に告白した方がいいのかなって、うっすら思ってはいたけど勇気が出なかった。
「でも、緑川君は私のことなんて何とも思ってないよ」
緑川君は幼馴染のまどかとは名前で呼び合っているのに、私はいつまで経っても距離を縮めることが出来ない。
「あたしが男だったら絶対みちるの告白断ったりしないし!」
まどかは私の方を見て食い気味に言った。その声は大きくて、女子トイレの外まで聞こえないか一瞬心配になった。
「みちるの告白断る男なんて世界一馬鹿だよ」
まどかが微笑んだ。その笑顔にずっと励まされてきた。
「来週炎色反応の実験やるっしょ? 炎色反応って実質花火だし、ロマンチックなムードで告白しちゃいなよ。あたしはテキトーな理由つけて欠席するからさ」
「でも、もし振られちゃったらどうしよう」
「その時は、いっくんをぶっ飛ばしてあたしが慰めてあげる! みちるの好きなお菓子なーんでも作ってあげる!」
まどかは頼もしい。まどかとは一生親友だとあの時強く思った。