マルグリットが頭を抱えながら、ああでもないこうでもないと傍から見たら混乱している様な光景にジェラール騎士団長は腹を抱えて笑っている。

『案外、そいつの人間としての本質が見えるかもしれんな』

 突然何言ってるの?この人と言わんばかりにマルグリットは自身が頭を悩ませる原因となったジェラール騎士団長に若干苛ついていた。

『じゃあ、聞き方を変えよう。お前が騎士を志したキッカケはなんだ?』

『キッカケですか? えーっと当時根暗でボッチで人見知りが激しくて、まさに腫物を具現化したような私にフィルミーヌ様は……』

 ジェラール騎士団長に『自分で言ってて悲しくならんのか?』と突っ込みを入れられるが、マルグリットは思い切り無視する。

 (そうだ、思い出した。嫌な顔一つせずに根気よく話しかけてくれてフィルミーヌ様と行動を共にするようになってからも、困っている人、悩んでいる人に手を差し伸べていた光景を見て、私もこの人の様になりたいって思ったんだっけ。
 
 私は他人と接していなかったから人の悩み相談に乗って上げて適切な回答が出せるとは思っていなかった。私に出来る事は戦う事だけ。だから自分の出来る事でフィルミーヌ様に一歩でも近づきたい。
 
 フィルミーヌ様に…… そうだ……)

『私はフィルミーヌ様に顔向け出来ない自分になりたくない。だから私は何度でも手を差し伸べる』

『そうだな、『騎士』という職業についていなくても『騎士』として生きることはできる』

『ちょっと意味わからないです』

『俺の考える『騎士』の本懐とは心の在り様だと思ってる。お前の言っていた理由も一つの解だし、キッカケなんて些細なものでもいい。情けなくてみっともなくて無様でもいい。血反吐を吐いて泥水を啜ってでもいい。弱いものが圧倒的暴力で蹂躙される目の前の光景から目を背けるな。どんな時でも下を向くな。前を向いて立ち上がれ。圧倒的暴力でも屈する事無く立ち向かって守り抜け。それが出来た時お前は本物の『騎士』になる』

『おぉ、なんかカックイーです』

『そうだろう、そうだろう。『騎士』のなんたるかを学んだお前に一つとっておきを伝授してやる』

『とっておき?』