マルグリットを叩き起こしたのはメデリック公爵家に長年仕えており、公爵家お抱えである騎士団の団長である。
年齢は四十を超えたにもかかわらずその類稀な容姿は女性達を魅了し、敵対する相手にはいとも容易く畏怖させてしまう国内最強とも言われる名高い武人である。
それほどの人物に直接稽古をつけてもらえるなんて、然う然うある機会ではない。そう喜んだのも束の間、一発も当てられることはなく一方的に打ちのめされて気絶していたのだ。
『あれが躱せないとはお前もまだまだ未熟者だな』
ジェラール騎士団長は持っていた木剣を私の頭にコツコツ当てて、ため息をついて呆れていた。
『グヌヌ、あれは…… そう、油断というやつです』
『馬鹿たれ、半人前とはいえ騎士が油断なんて言葉を口にするんじゃねえ。油断なんてものは絶対にあっちゃならねえ、いいな』
マルグリットの言い訳にジェラールは怒気を帯びた声で言い聞かせた。
『はい……』
マルグリットはバツが悪そうに俯きながら返事をしている。
『いいか、マルグリット。俺達は学園に入ることはできねえ。だから代わりにお前がフィルミーヌお嬢様をお守りしなけりゃならねえ。なのにその体たらくは何なんだ。
フィルミーヌお嬢様はお優しいお方だ。困っている者全てに手を差し伸べようとするだろう。それらは全て守護対象だ。お嬢様がお守りしようとするものは意地でも守り抜け』
何を無茶苦茶言ってるんだ、この人はとマルグリットはもはや苦笑いするしかなかった。
『一つでも守れなかったら騎士失格ですよね……?』
『守れないか…… あっちゃならねえ事ではあるが、万が一やらかしてしまったとしても俺は騎士失格とは思わんがな』
『どうしてですか? だって守れなかったんですよ?』
『お前に聞きたいんだが、『騎士失格』と言われた後に戦う力を持たない人間が魔獣や盗賊に襲われた場面に遭遇して、お前は『私はもう騎士じゃないから』と言って見殺しにするのか?』
『いえ、守ります』
『何故? お前は騎士じゃないんだぜ?』
(何故? 騎士をクビになっても人々を守ろうとする理由? え? 目の前で力無き人が襲われてるのに素通りはないでしょう? そういう回答が欲しいわけじゃないの? なんだろう、急に哲学みたいになって来て頭が混乱してきた)
年齢は四十を超えたにもかかわらずその類稀な容姿は女性達を魅了し、敵対する相手にはいとも容易く畏怖させてしまう国内最強とも言われる名高い武人である。
それほどの人物に直接稽古をつけてもらえるなんて、然う然うある機会ではない。そう喜んだのも束の間、一発も当てられることはなく一方的に打ちのめされて気絶していたのだ。
『あれが躱せないとはお前もまだまだ未熟者だな』
ジェラール騎士団長は持っていた木剣を私の頭にコツコツ当てて、ため息をついて呆れていた。
『グヌヌ、あれは…… そう、油断というやつです』
『馬鹿たれ、半人前とはいえ騎士が油断なんて言葉を口にするんじゃねえ。油断なんてものは絶対にあっちゃならねえ、いいな』
マルグリットの言い訳にジェラールは怒気を帯びた声で言い聞かせた。
『はい……』
マルグリットはバツが悪そうに俯きながら返事をしている。
『いいか、マルグリット。俺達は学園に入ることはできねえ。だから代わりにお前がフィルミーヌお嬢様をお守りしなけりゃならねえ。なのにその体たらくは何なんだ。
フィルミーヌお嬢様はお優しいお方だ。困っている者全てに手を差し伸べようとするだろう。それらは全て守護対象だ。お嬢様がお守りしようとするものは意地でも守り抜け』
何を無茶苦茶言ってるんだ、この人はとマルグリットはもはや苦笑いするしかなかった。
『一つでも守れなかったら騎士失格ですよね……?』
『守れないか…… あっちゃならねえ事ではあるが、万が一やらかしてしまったとしても俺は騎士失格とは思わんがな』
『どうしてですか? だって守れなかったんですよ?』
『お前に聞きたいんだが、『騎士失格』と言われた後に戦う力を持たない人間が魔獣や盗賊に襲われた場面に遭遇して、お前は『私はもう騎士じゃないから』と言って見殺しにするのか?』
『いえ、守ります』
『何故? お前は騎士じゃないんだぜ?』
(何故? 騎士をクビになっても人々を守ろうとする理由? え? 目の前で力無き人が襲われてるのに素通りはないでしょう? そういう回答が欲しいわけじゃないの? なんだろう、急に哲学みたいになって来て頭が混乱してきた)