まさか弟君? 可能性は高い。でも咆哮のおかげで方向は把握できた。
 
 心臓に手を当てて鼓動が高鳴っていくのを感じる。額や掌から汗が滲んでいるのも解る。呼吸も心なしか早まっている。緊張しているのが自分でもわかっている。
 
 もたもたしてたら弟君が異常個体にやられてしまう。ギルドからの監視員もそこにいるかもしれない。
 
 躊躇ったら死ぬわよ、マルグリット。
 
 私は自分に言い聞かせながら心臓を少し叩いて落ち着かせる。
 
 目を閉じて大きく息を吸って吐くを数回繰り返す。
 
 よし、ここからは全力で行く!!
 
『魔力展開』

「いっけええええええええええええ」

 私は自分に活を入れるために叫びながら走り出した。
 
 
 
 
 人影が見えた。どう見ても情勢が悪そうだ。
 
 三人いる。咆哮をまともに受けたのか地面にへたり込んでいるのがわかった。
 
 まずい、グランドホーンが三人に近寄ってる…… ってかデカすぎ!あれが異常個体か。前に出くわしたグランドホーンの倍くらいありそう。
 
 とりあえずグランドホーンの気を逸らすしかない。
 
「だあああああああああああああああああああああああ!」

 私は無我夢中で叫んだ。少しでも気をそらして時間を稼ぎたかったからだ。
 
 グランドホーンはピクリと反応して、こっちに振り向いた。
 
 私は三人からグランドホーンを少しでも引き離したくて思い切りの一撃を食らわすことにした。
 
 よし、その顔面に今から一撃お見舞いしてやる。
 
「どけええええええええええええええええええええええ!」

 私は叫ぶことで気合を入れて、全力跳躍からの蹴りをグランドホーンの顔面に食らわしてやった。
 
 勢いがついたおかげか、グランドホーンは後方に仰け反ったがダメージはほとんどないように見える。
 
 今の内に三人にここから離れて貰わないといけないと思い、急いで三人の方に振り返った。
 
 対象の弟君を見つけた。そしてあとの二人は…… 何度見しても間違いなく面識がある人物だった。
 
 それは嘗てというほど昔でもないけど、腕試しで大森林でオークに襲われて死にかけていた二人だった。

 また懲りずに死にかけてるの、この人たちは…… なんでこんなお約束みたいなことをしてるの……