「マルグリット様、本日はお帰りでしょうか?」

 私は少女の弟を救出するために街の外に急いで出ることにすると出入口で衛兵の青年に声を掛けられた。

「はい、お仕事ご苦労様です。何かありましたか?」

 領主の娘であることは衛兵にはバレてるので余計な勘繰りをされないようにさっさとやり過ごして街の外にでないといけない。
 
「このままご帰宅されるのであれば問題はないのですが、念の為お話しておきますと、当面の間は常闇の森に規制が掛かっておりますので近づかない様にお願い申し上げます」

 常闇の森に? なんでよりによって今のタイミングなの? そんな話お父さまからも聞いてないのに……。 
 
 まあ、娘がまさか常闇の森にグランドホーン狩りに行ってきまーすなんて言わないし、常闇の森に行こうとも普通は思わないから言わなくても不思議はないか。
 
 しかし、規制とは穏やかじゃないわね。何があったのかしら?
 
「ごめんなさい。ちょっとお聞きしたいのだけれども、規制が掛った理由を教えて頂けますか?」

「えっと……」

 衛兵は『令嬢がそんなこと気にする必要ある?』という表情を浮かべていた。どうやら私に話をすることに躊躇いがあるらしい。
 
「私も領主の娘として領内で起きている事態は把握しておくべきと考えております。皆様の職務の邪魔は致しませんから教えて頂けないでしょうか。」

 衛兵はそこまで言われたら仕方ないという面持ちになっている。
 
 ククク、『領主』というキーワードを出せば大抵の小童はイチコロよ。
 
 甘すぎるのよ若造が、その程度で尋問令嬢マルグリットから逃げられると思わないことね。

「そこまで仰るのでしたら…… 実は……」

 話を聞くと、グランドホーンの異常個体なるものが出現したらしい。
 
 そのせいで、グランドホーンの通常個体が異常個体に怯えてしまって隠れる事態になっているとのこと。
 
 大きさは通常個体の倍ほどあるらしい。グランドホーンは餌として薬草を主に食している。だからグランドホーンの身体の素材は大抵病気の治療目的で利用されることが多い。
 
 そしてその薬草が異常個体のせいで、一気に減らしているとの事らしい。どうやら大きい分食欲が旺盛なようだ。