「そういう問題じゃないわ。今は中心部付近にいたとしてもいつどこに移動するかわからないのよ?だからこそ全面封鎖しているの。理解してほしいな」

「いや、でも僕は森の中にある素材がどうしても必要なんです。おばあちゃんの命がかかってるんです」

 少年が必死に訴えていると、もう一人のローブを纏った女性がフードを取ってため息を尽きながら面倒くさそうに近寄って来た。

「ねえ、本当かどうかは知らないけど、そうやって情に訴えれば何とかなると思った? 何で私たちがここにいると思ってるの? これ以上、余計な犠牲者を出さないためだよ。
 大体キミさあ、戦う力あるわけ? ないよね? おばあちゃんの前にキミが犠牲者として追加されちゃうから。無駄な死人を増やさない為にギルドの方で封鎖してるのになんで解らないかなあ?」

「それは……」

 少年は情に訴えればどうにかなると思っていたが先読みされていた。がっくりと項垂れている所を見かねた軽装の女性が割り込んできた。
 
「チェスカ、ちょっと言い過ぎだよ。少年にだって事情があるんだろうし、もうちょい言い方ってものだね……」

「薬草が必要だったらそこのお姉さんが代わりに取ってきてくれるから我慢しなさい。というわけでルーシィよろしくぅ」
 
「はぁ? ふざけんじゃないわよ! アンタが昨日酒場で隣の席のオッサンと飲み比べとかやりだして飲み過ぎたせいで余計な出費がかさんだのよ! しかも負けて何時の間にか費用がこっち持ちになってるし、そのせいで宿賃足りなくて急遽見張りなんて余計な仕事をやるハメになったってのに……。 アンタがやりなさいよ、チェスカ」

「出た出た! 昨日の終わった話を蒸し返すとかさあ、細かい女はモテないぞー、ルーシィ」

 チェスカと呼ばれたローブの女性がルーシィと呼ばれた軽装の女性と仕事の押し付け合いから口論に発展していたのを見ていた少年は今ならコッソリ抜けられそうだと判断してスキを見計らって森の中に駆け出して行った。

「大体アンタはいつも「待って待って」」

「何よ……?」

 チェスカはルーシィの死角となっている箇所を指さした。ルーシィが振り返ると少年がいない事に気付き周囲を見渡すと、森の中に走っていった少年を見つけた。

「チェスカ、アンタ早く言いなさいよ!」

「だってルーシィの愚痴が終わらないんだもん」