少年は常闇の森に向かって走っていた。
 
 祖母の容体が急変したため、急ぎで薬の素材となるグランドホーンの角が必要になったからだ。
 
 少年は幼い。本来であれば街の外に出る前に衛兵が止めるべきなのだろうが、顔みしりなのか簡単に通してくれた。
 
 衛兵は冒険者ギルドから常闇の森に規制をかけていることは知っていたが、少年の祖母が薬草を必要としていることも知っていた。
 
 薬草は常闇の森の全域で入手する事ができる。そして、今回規制の対象となったグランドホーンの異常個体は森の中心部付近にいるという事を知っていたため中心部に行かない限りは問題ないだろうと考え、念の為に中心部にだけは行かない様に注意を促して通してしまった。
 
 少年もその時は衛兵の言う事を理解したかのように頷いていた。
 
 だが、衛兵は知らない。
 
 少年の本当の目的が一時しのぎの為に薬草を取りに行くのではなく根絶治療の為にグランドホーンの角を探しに行こうとしていることを。
 
 事情を話したら間違いなく止められる。少年は衛兵には敢えてグランドホーンの話を意図的に避けた。
 
 衛兵に騙して申し訳ないという気持ちはありつつも、少年は自分の目的を最優先したのだ。
 
 しばらく走っていると少年の視界に常闇の森が入り始めた。それと同時に徒歩に切り替えて息を整え、付近を見渡すと森の外縁付近をうろうろしている女性二人がいることがわかった。
 
 少年は女性達の目的はわからないが、恐らく自分には無関係だろうと女性達を気にせず素通りしようと考えていた。
 
 少年は常闇の森入口に差し掛かったところで少年は女性のうち一人に呼び止められた。軽装で帯剣をしている女性だった。
 
「そこの少年、止まりなさい。今この森はギルドから規制がかけられているの。解除されるまで入らないでね」

少年は現在常闇の森に規制が掛かっていることを知らなかった。ただ、衛兵から詳細までは聞かされていなかったが、中心部には行くなという警告をされていたことだけは覚えていた。

「もしかして中心部に何かまずいものがあるってことですか?衛兵さんからそういった話は聞いています。中心部に近づかなければいいんですよね?」